はっはっは。正直者のあなたにはきれいなイーガン、もとい、テッド・チャンをあげましょう。
グレッグ・イーガンと並んで現代SFの最高峰ともいわれるテッド・チャンの初邦訳集にして全作品集。1990年から2002年までの12年間に彼が発表した小説は、ここに収録された8篇で全部だそうです。そしてそのほとんどがヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、スタージョン賞ほか多数の賞を単独または重複受賞。作品数よりもノミネートされた賞の数の方がはるかに多いってなあどういうことだ。もちろん賞がすべてとは言いませんが、それも程度問題ではないのかと。 で、中身を読んで二度びっくりさ。 人間の意識のあり方、あるいはその変わり方をテーマにした作品の多さから推して、チャンの視点もイーガンにごく近いところにあるのは確かなようです。ただし当然ながら、チャンとイーガンでは作風もアプローチのし方も結論もそれぞれに独特で、安易に類似品としてくくれるものではありません。だからこそ、誰に聞いても「両方読んどけ」と言われるわけだが。 おおざっぱにいえば、イーガンの問いは「自己とは何か」であり、チャンの問いは「世界とは何か」ではないかなあと思っています。たとえばイーガン作品では、人間の脳をデジタル化したり精神だけをコピーしたり、「人間の個体をいじって実験してみた」的なアイデアがよく使われます。対してチャンの作品に多いのは、異なる言語を話す人は同じ世界でも異なる見方で見るだろうとか、自分数学者なんだけど1=2を証明しちゃった、もうやってらんないとか、「考え方を変えてみたら世界の方が違って見えた」という種類のアイデア。すっきり分けられる問いではないかもしれませんが、二人の立ち位置の違いは感じられる。ハードのイーガンに対するソフトのチャンとでも言いましょうか。あるいは力のイーガン、技のチャンと言いましょうか。 小説のスタイルでいえば、チャンの作品には派手なアイデアや超展開といった要素は薄くて、地味ながら堅実、そして物語上の構成美にこだわる傾向が強いように思えます。イーガンは立てた命題の答えを追求するために曲芸的な論理の飛躍も辞さず、奇抜なアイデアにひっぱられて物語が少々乱暴になってもおかまいなしという、いわば剛力無双タイプ。一方、チャンはあくまでエレガントに、人間を改造したりしないで注意深くオチまでもっていく技巧派タイプ。 ま、そういう意味での「きれいなイーガン」ということで。 純粋にテクニックに関しては、やはりチャンの方がイーガンより巧いように思えました。表題作「あなたの人生の物語」などの構成を見るかぎりでは。しかし、個人的にはイーガンの方が好みです。笑えるし。 個々の収録作品について書くと長くなるので、ちょっと一息。 ──── 吉報1。アニメ版デモンベインはエセルドレーダのCVも原作ゲーム版と同じ人が(アルと二役で)担当されるのだとか。アニメFateが少々へちょい出来なので、その分こちらに期待がかかります。ファンの期待を裏切らない内容であることを祈る。 吉報2。 エルリックサーガ、復刊。訳者は井辻朱美氏で統一され、未訳分三作も今回の復刊を期に新規出版されるとのこと。もし挿絵が付くならやはり天野喜孝氏に。無理かなあ。
by umi_urimasu
| 2006-02-04 00:03
| 本(SF・ミステリ)
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