木星の衛星ガニメデの氷の下から発見された2500万年前の宇宙船。科学者たちが総力をあげてその調査に取り組んでいる最中、宇宙船を建造した当の種族──ガニメアンの生き残りが突如ガニメデに舞い戻ってきた。かつて彼らが太陽系から忽然と姿を消した真の理由とはいったい何だったのか。異星人との融和と種族的対比を描いて人類の来し方行く末を眺望する本格ハードSF。
1978年に出版された、「星を継ぐもの」の続編です。前作は驚天動地のアイデアで人類の起源を説明してのけた、それこそインド人もびっくりの謎解きSFでしたが、それに比べると今回はずっとおとなしい路線。ありえねー! と本を放り投げるようなことはたぶんない。 むしろ作品の主眼は、温和な異星人とのファーストコンタクトとそのあとの地道な交流を描く方に置かれていたと思います。その様はあまりに和やかで理知的で友好的すぎて「そんなにうまく行くもんか」と疑問を覚えないでもありませんが、まあ生物学的にもごく近い異星人のケースなら実際こんなものかもしれんし。微笑ましくていいんじゃねー。「科学者どうしウマが合う」的な底抜けの楽観主義は相変わらずのホーガンって感じで、気にしなければ気にもならない。登場人物がやたらポジティブな科学者ばっかりなのにも、二作目なのでもう慣れた。 前作でも効果をあげた「謎解き科学もの」のスタイルは、あれほど派手ではないもののそこそこに継承されています。ガニメアンの種族的特徴である温厚な性格の理由や、人類の進化に彼らがどのように干渉したのか、といった問いへの答えが徐々に明らかになっていくあたりにその名残りが。 そして物語の最後に放り込まれた新たなサプライズと共に、物語はさらにスケールを広げた次回作「巨人たちの星」へバトンタッチ。なるほど。最初からそのつもりだったんだな。まあ、ある意味バレバレだったけどな。 ガニメアンとの終始友好的な交流の様子や滑稽な熱狂的歓迎の描写は、なにやらクラーク「幼年期の終わり」を連想させるものがありました。僕だって異星人の使節が地球にやってくると聞いたら、見物に行って旗のひとつも振りたいと思うんじゃなかろうか。主に野次馬根性で。 作中のガニメアンはそんな乱痴気騒ぎすら好意的に解釈して「地球人エライ」とヨイショしてくれたりする、ひたすらに友好的な種族です。その控えめな態度そのものに、どことなくバカにされているような気がしないでもないが……きっと後進種族の僻みでしょう。 いいじゃないか、人間だもの。 次の「巨人たちの星」に今すぐ手を出すかどうかは、正直微妙なライン上。 ──── で、もう一冊いきます。 「クビツリハイスクール」西尾維新 主人公(♂)が変装して女子校に潜入、バトロワごっこ。以上。 例の戯言シリーズですが、ボリュームも密度も明らかに1巻〜2巻より薄め。個人的にはやはり、ギャルゲーテンプレ的な美少女キャラの濫用に対する抵抗感はいかんともしがたいものがありました。もともと薄かったミステリ性もすでに完全に形骸化していて、むしろ興ざめを誘う要因になりつつある。ここらが潮時かもしれんなぁ。 ちなみに今回はジョジョをはじめ、少年ジャンプネタの引用がやたらと目につきました。僕でもわかるベタなものばかりだったが、あれはいかなる意図なりや? まあ、作者がジャンプ好きらしいってことはよくわかったよ。
by umi_urimasu
| 2006-01-11 00:10
| 本(SF・ミステリ)
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