タイトルから想像される通り、おてんばな姫様が活躍するライトタッチな時代劇。一般に「時代劇」というと、鬼平犯科帳とか剣客商売とかの池波ちっくなものがすぐ連想されるわけですが、一方で「もっとほんわかした話が読みたい」という要求も少なくはないでしょう。そうした需要に応えるべくして書かれたものだという気がします。イメージ的には「暴れん坊将軍」のやんわりしたパロディ、といえば当たらずとも遠からずかな。
豊後温水(ぬくみず)藩主の娘、蜜姫は、正義感が強くて冷静でしかもお茶目な十九歳。城外で暗殺者に狙われた父の命を間一髪で救った彼女は、自藩を巻き込む幕府の陰謀が進行中らしいと知り、自らそれを阻止せんものと江戸へ向かって出発する。お供は無愛想な忍び猫一匹。旅の途中でさまざまな人に出会い、さまざまな冒険に巻き込まれつつ、目指すは八代将軍・吉宗公との直談判。ついでに武田の埋蔵金。 米村圭伍の小説に触れたのは今回が初めてなので、これが米村圭伍らしいといえるものかどうかはちょっと判断できませんが、少なくとも「穏やかさ」「なじみやすさ」は特徴として挙げられるんじゃないかと思います。ですます調の軽妙な文体、散りばめられた日本史のトリビア、陰謀云々よりも「若武者に変装した蜜姫、船上でのトイレはどうするのか」などというヨタ話的エピソードの方にこだわった物語。読み手にしてみれば、時代劇というイメージ先行の作品世界にストレスなく入り込めるように、プロの作者がこうして配慮してくれるのはありがたいことではある。もちろんありがた迷惑な時もあるわけですけど。 個人的には、波風の立たなさすぎる展開の連続に対してはちょっぴり拍子抜けな印象は否めませんでした。が、それはもちろんこっちの都合であって作品に罪はない。 僕の場合、SFばかり読んでいると「アイデアやプロットがいかにユニークであるか」という一点だけに関心がかたよってきて、ステロタイプな物語を軽視する方向に思考が傾いていってしまうことがままあるようです。そういうふうにならないよう、時々はこうして思いっきりパターンにはまった小説も読んで感性のバランスをとる必要があるのかもしれません。古典⇔前衛、商業⇔芸術、てな感じで、両極の間を振り子のように往復している状態が、じつは読み手としては一番安定しているんじゃないかと思うわけですよ。 まあ実際にはなーんも考えず、そのときどきで反射的に面白そうだと思った本を選んで読むだけというスタイルを物心ついて以来ずっと続けているのですが。刹那的すぎるかな。 ──── おまけ。なんとなく音楽系で。 [音楽] メタル風たのしいおんがく フランク・ザッパなんかを連想させる、遊び心のあるパロディ。「かえるの合唱」「ちいさい秋見つけた」あたりの思いきったアレンジが楽しい。 [音楽] エルメート・パスコアル live at the Jazz Cafe@London mp3へのリンクあります。まるごと80分。まさに地上の楽園ぞ。 [音楽] 人は死ぬまでに430万円分の音楽を楽しむ CD1枚2500円とすると、1720枚分。「おまえは今まで聴いたCDの枚数を覚えているのか?」と言われてもはっきり答えられませんが、僕の場合はたぶん400〜500枚ぐらいかなあ。すでに平均値の1/4を楽しんでしまった計算だ。でも大切なのは枚数じゃなく、豊かな音にどれだけ出会ったかでしょう。
by umi_urimasu
| 2005-10-27 00:41
| 本(others)
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