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「影のオンブリア」パトリシア・A・マキリップ
「影のオンブリア」パトリシア・A・マキリップ_a0030177_22262353.jpg都じゅうの弔鐘が一斉に鳴りわたった日、大公の妾妃リディアは宮殿を追放された。追放したのは、公国の支配を企む前大公の大叔母。路頭に迷う彼女を助けたのは、無貌の魔女に育てられた〈蝋人形〉の少女。陰謀家たちの毒牙から幼い新大公の命を守るために奔走するリディアは、年ふりた街の地下へといざなわれてゆく。やがて、麗しき頽廃の都と対をなす伝説の都〈影のオンブリア〉が、ついに黄昏の境界よりたち出でる時が来た───。


いとうつくし。"ファンタジー"と聞いてまっさきに思い浮かぶ幻想的できらびやかな西欧世界が、顕微鏡的な緻密さで描きだされていく様子は、なんというかまあ、圧巻でした。壮麗な王宮や小汚い路地裏、王侯貴族たちの華麗なる日常、その影にうずまく陰謀や醜い権力争い、手に汗握る冒険、妖しげな魔法の力。心の中で致命的に枯渇しかけていた何かが、これ一発で100%満たされた気分。

ただし、僕がこの作品でいちばん強く惹かれたのは、そうした明らかなファンタジーらしさとはまた別の部分でした。それが何かっていうのは説明しづらいんだけど。

うまく言えないんですが、それは「古さ」のようなものだったと思います。倦怠、憂鬱、退屈、諦観など、長い時間に結びつく色々な感情を呼び起こす「古さ」を、物語よりもさらに奥深いところから感じたように思うのです。設定や文体や、そういうあからさまなものが原因じゃなかった。いったいあれは何だったのか。登場人物や風景にルネッサンス絵画じみた古風な雰囲気をまとわせていたのも、目に見えるファンタジーらしさ以上に、この不思議な「古さ」のせいだったような気がする。
もしかしたら、西欧ファンタジーの土台の部分にわずかに触れたということなのかもしれませんな。

指輪やゲドは別として、普段からファンタジーを特に好んで読むって方でもないので、これがマキリップの他の作品と、あるいは他のファンタジー作家の作品とどういう関係にあるのか、その辺は残念ながら見当もつきません。それに、久しぶりの高純度ファンタジーに必要以上に過剰反応している可能性もないとは言い切れない。
しかしそれでも、ファンタジーは好きなのにマキリップは未読という人にはやっぱりおすすめしておきます。たとえ僕の目がどんなに曇っていようとも、これが傑作であることだけは間違いないから。突撃上等っすよー。

ちなみにこの「影のオンブリア」は、2003年の世界幻想文学大賞受賞作品。古くはトールキンやスタージョンにも栄冠を授けたという、なかなか大層な賞らしい。マキリップは1975年にも「妖女サイベルの呼び声」で同賞を獲っていて、次に読みたいのはこれですね。

あと、付け加えておくと、本作はクライマックスそのものよりもエピローグが最強でした。ファンタジー好きなら、あれは読まなきゃ嘘だろ。

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蛇足かとも思いつつ、ネガティブな意見もひとつ。
個人的に唯一ものたりなかった点は、作品世界の精巧さに対して、人物の造形がやや単純に感じられたこと。性格や言動が「役割のイメージ」に忠実すぎて、どことなく芝居じみた印象を受けることがあるのです。マグやリディアはともかく、デュコンやドミナ・パールにはもう少しリアルな肉付けをして欲しかった気がするんだがなあ。
とはいえ、そのおかげでおとぎ話的な美しさが維持されているのだとすれば、この作品にとってはむしろ美点とみなすべきものなんでしょう。
ま、ふーんと聞き流しておいてください。


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無関係なおまけ。

[映画] 松本大洋「鉄コン筋クリート」映画化
「ピンポン」の次に読んだのがこれだった。もうかなり記憶が薄れてしまいましたが、ラストシーンの鮮烈な美しさは印象に残っています。プロデューサーは「アニマトリックス」のマイケル・アリアス氏。「マインド・ゲーム」みたいな突き抜けた表現への挑戦を期待したい。

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朝目新聞にもパロディがあったけど、こっちはプロ。

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メジャー作品+難しめのお題=ハイクオリティなスレの法則?

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濃ゆい漢を演じさせれば当代無双、もちろん現役第一線。最近見た作品では、Gロボの戴宗のCVもこの方でした。
by umi_urimasu | 2005-10-22 00:03 | 本(others)


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