個人的に注目の作家、飛浩隆の長編。突きぬけた残虐性の中に見せる、神聖ともいえる美しさにちょっと惚れました。「象られた力」でも顕著なその要素が、本作ではより濃密に、バラエティ豊かに展開されます。
ちなみに「バラエティ豊か」というのはこの場合、登場人物のあらかたを皆殺し!ってことでもあるのだが。「象られた力」が残酷性で2ぐらいとすれば「グラン・ヴァカンス」は10以上。確かに美しくはありますが、同時に容赦もないですね。 とりあえず耐性に自信のない人は、食事前に読むのはできるだけ避けた方がいいよ。 と、経験者は語る。げほげほ。 ネット上に構築された仮想リゾート〈夏の区界〉。南欧の港町に似せてつくられたこの楽園では、千年前に人間の来客が途絶えて以来、ホスト役のAIたちだけが永遠にくりかえされる休日を過ごしていた。 だがある日、外界からの侵略プログラム〈蜘蛛〉が現れ、平和な日々は終わりを告げる。住民たちをむさぼり食らい、すべてを破壊し呑み込んでゆく〈蜘蛛〉。絶望的な抵抗戦のさなか、生き残りのAIたちの前に現れた千年ぶりの訪問者〈ランゴーニ〉は、彼らに区界攻撃の真の理由を告げるのだった……そう、これはAIの天敵である「天使」に対する罠なのだ、と。 「象られた力」と「グラン・ヴァカンス」に、方向性の上で違いがあるとしたらどこだろう。 エロス……かな、やっぱり。確かに「象られた力」に比べて、本作は圧倒的にエロティックです。そしてそれは、必ず死と結びついているために、よけい甘美なものになっています。愛らしいものが愛らしいままで滅ぼされる苦痛。傷つけ、汚し、破壊する、究極的な行為の底に隠れた悲哀。一片の憤激も憎悪も許されない、そのやるせなさは「象られた力」の比ではありません。そこが美しい。 ただ、シチュエーション的にもかなり生理的に痛い場面ばかりなので、人によっては拒絶反応は避けられないかもしれない。シュールな官能美か、あるいは単なるグロ趣味か。 僕は奇麗だと思うけど、そう思えるのも小説だからだろうなあ。 少なくとも、ビジュアルでは絶対見たくない。 ジャンルでいえば、これは一応SFってことになるようですが。でも実際には、裏設定に合わせてSFっぽい体裁をとったという以上の意味はなさそうでした。第一、登場するAIの設定がすでに魔法みたいなものだし、物語そのものも現代のSFというよりは古ぶるしい恋愛悲劇だし。〈硝子体〉や〈鳴き砂〉のイメージなどは、むしろ幻想小説に近い。作者が選んだ古典的なスタイルは、箱庭のような町の、ささやかな破滅を描いたこの作品に似つかわしい古さだといえます。まあジャンル分けによほどのこだわりでもないかぎり、強いてSFとみなす必要もないでしょう。 他の人のレビューや感想を見てみると、絶賛の一方で「内容が古くさい」「エヴァンゲリオン的な世界崩壊ものの類型」「ありふれたセンチメンタリズム」「AIの設定が理不尽」など、かなり否定的な意見も見かけてやや気圧されました。うーん。 まあ、僕はそこらへんは委細かまわない派です。こういう美しさ重視の作品に対して、設定のほころびやガジェット類のありきたりさ、ましてストーリーの古さを改めろと言っても仕方がないと思うので。このままで美しいと感じる人には価値があり、そうでない人には価値がない。という、しごく単純明快な小説という気がします。 むしろそんなことより論ずるべきは、 ジュリ子えろすぎ。犯罪的。嫁にしてぇ。 とかそっちじゃないですか。 ジュリーはエロいよー。のっけからぱんつはいてないし、舌ピアスであふあふいっちゃうしな。生身の人間と大差ない設定とはいえ、AIをここまでエロっちく描いた小説、たぶん初めて読んだぞ。 そうか、AIはムダ毛処理しないのかあ。 そんなところに清冽な感動をおぼえる夏の終わりのとある午後。
by umi_urimasu
| 2005-09-05 00:24
| 本(SF・ミステリ)
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