「ラピスラズリ」山尾悠子
a0030177_1573874.jpgべらぼうにびゅーてほう。

その筋では生ける伝説とまでいわれる山尾悠子、20数年ぶりの書き下ろし。
いや、大仰に言われるだけのことはある。なんかもう、ありえないぐらい奇麗だ。

幽霊と戯れる娘、館の住人を襲う疫病、水没してゆく日本の片田舎、青金石の光に包まれて廃墟に降り立つ天使。幻想的な断片の連鎖によって生と死の流転を描いた、不思議系連作長編。
映像的というよりもむしろ絵画的なイメージが強く、ひそやかで重みのある静謐さが全編に満ちています。埃をかぶった美術品のようなこの感じ、実はけっこうレアなもので、これに近い方向で僕が知っている小説といえばエンデの「鏡の中の鏡」ぐらいしか思いつかない。たとえるなら「鏡の中の鏡+灰羽連盟」ってとこかな。ただ、エンデの悪酔いしそうなシュールレアリズム指向は「ラピスラズリ」にはないし、それどころか物語の輪を閉じることすら眼中にないみたいだけど。

とにかくめっさ奇麗なのです。ただそれだけ。

純粋に美しさを追求した創作物の、その美しさを味わうためにまた読み返す、いわば骨董美術を目で楽しむような読み方が、この本には似つかわしいような気がする。
いい買い物したなあ。


収録作品のひとつ、「閑日」はこんな話。

冬が近づくと、〈冬眠者〉の一族は一斉に眠りにつき、春まで決して目覚めない。しかし、眠りについた館の中でただひとり目覚めてしまった少女ラウダーテは、屋根の上に棲む幽霊と言葉を交わすようになる。大晦日の前夜、少女は吹雪の中を幽霊の導きによって館の窓から飛びおり、台所場の召使いたちの元へたどり着く。一方、幽霊は与えられた時を使い果たし、光と共に消えてしまう。

これだけじゃ何のことやら意味不明でしょうが。実際、論理的な理解よりも情景を感覚的に受けいれることを要求される部分が多くを占めています。一番近いのは「夢を見ている」状態かな。他の収録作も程度の差はあれ、基本的には同じパターン。
「竃の秋」は、冬眠前の〈冬の館〉の住人たちを襲った災厄の顛末を描いた、比較的ドラマ性の高いパート。時系列も人物関係も錯綜していて難解でしたが、個人的にいちばん面白かったのもこれ。
次の「トビアス」は、リアルヨコハマ買い出し紀行・鬱バージョンといった趣の小品。唐突な世界観の転換が衝撃的でした。
そして最後に、ただ言葉のかぎりを尽くして春の目覚めのすばらしさを讃えまくる「青金石」。

各エピソードは一応関連しているとはいえ、つじつま合わせ的な説明はどこにもありません。不可解な事柄がさも自明のように語られたり、なんの説明もなく時系列が逆転したり、見知らぬ人物が紹介もなく登場したりすることもざら。幻想小説というだけあって、表現手法自体が幻想的なわけだ。
さらに、暗示的な部分や各エピソード間のクロスオーバーは混み入っていて、一読しただけではとてもほどき切れませんでした。再読必須。
というか、あのとろけるような美文の山にもう一度挑戦できるのなら、むしろ難解さは望むところだが。


あと、今回「ラピスラズリ」を読んで確信したこと。

「山尾悠子作品集成」を、何がなんでも読まねばならぬ。

何がなんでも。


「夢の棲む街」「透明族に関するエキス」「破壊王」「ゴーレム」などという、聞くだにすさまじいタイトルの作品をみっしり詰め込んだこの本。「ラピスラズリ」以外では、現時点でプレミアムなしで手に入る本はこれしかないらしい。
こいつは傑作です。もう読まなくたってわかります。エンジン音を聞いてブルドーザーだと認識できるように。
しかし値段がなぁ……。
定価9200円て。
せめてもう一声まからんか、ええ?国書刊行会さんよ。

個人的には本は安ければ安いほどいい派で、装丁とか紙質には興味ないので。値段さえ安けりゃワラバン紙だってかまわんぞ。

てか、文庫出してくれ。
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by umi_urimasu | 2005-08-29 01:59 | 本(others)


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