読み方は「おんもらきのきず」。僕にとっては通算7作目?の京極堂。嗤う伊右衛門とかデブ本まで含めると、9作目ということになりますか。
もうすっかりこの手口にも慣れてしまい、初めて読んだ時のようなエンターテインメントとしての衝撃はさっぱり失せてしまいました。言いかえれば、だいたい先が読めるようになってきた。 とはいえ、作中で開陳される妖怪の民俗学的解釈などはやっぱり好きです。講談社、あの部分だけをひとつにまとめて図版や注釈を加えた資料集みたいな本を出版してくれないもんだろうか。 今回は特に、読んでるあいだずっと冷静だったせいか、あからさまに説明的な会話やご都合主義的シチュエーションがやや鼻についた感がありました。今までずっとそうだったのかどうかは過去に遡って読み直さないとはっきりしないんだが。 ただ、京極夏彦/京極堂の面白さは「トリックの意外性ではない」という点は「姑獲鳥の夏」からここまでずっと一貫していたと思います。いわゆる普通のミステリ的な意味でのトリックについては、はっきりいってほとんど無いも同然。むしろ真相には何の作為もなくて、それを構成とレトリックによって種明かしの瞬間まで謎めかしておくというやり方こそが京極夏彦のスタイルでした。 これは、ある意味では幽霊・妖怪譚の本質を突いているんじゃないかとも思う。「幽霊の正体みたり枯れ尾花」というあれね。僕自身、ミステリとしてよりも伝奇・民俗的妖怪ネタの宝庫として楽しんでいる節があります。それに、これはこれで高度なテクニックを要することだし、実際やってのけていることに感心もする。 極端にいえば、トリック無しでミステリを成立させているってことですから。 こういうシロモノは何て言えばいいんじゃ。新本格?脱構築? と、いくつか読んできましたが。 どれが一番いいかといえばやっぱり「魍魎の匣」にとどめを刺します。京極夏彦をこれから読むという人がもし身近にいたなら、この一作を推すのにためらいはありません。あの冒頭ときたらもう!! ちょこっとだけ引用していい? 「ほう」 匣の中から聲がした。 鈴でも轉がすやうな女の聲だつた。 「聽こえましたか」 男が云つた。蓄音機の喇叭から出るやうな聲だ。 うんとも否とも答へなかつた。夢の續きが浮かんだからだ。 「誰にも云はないでくださいまし」 男はさう云ふと匣の蓋を持ち上げ、こちらに向けて中を見せた。 匣の中には綺麗な娘がぴつたり入つてゐた。 日本人形のやうな顔だ。勿論善く出来た人形に違ひない。 人形の胸から上だけが匣に入つてゐるのだらう。 何ともあどけない顔なので、つい微笑んでしまつた。 それを見ると匣の娘も につこり笑つて、 「ほう、」 と云つた。 ああ、生きてゐる。 すげぇ。やめて京極、やめて京極! カレイドスターOVA 「笑わない すごい お姫様」(第52話)。 えーっと。これは……世間では黒歴史と呼ぶのでは。
by umi_urimasu
| 2005-06-22 00:06
| 本(SF・ミステリ)
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