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「風来忍法帖」山田風太郎
「風来忍法帖」山田風太郎_a0030177_0332825.jpgわたしが訓練教官の風摩小太郎である!
話しかけられたとき以外は口をきくな!
口でクソたれる前と後に“御意”と言え!
わかったかウジ虫どもー!

さーいえっさー。


あの「忍法帖」シリーズを生み出した日本娯楽小説界の至宝、故・山田風太郎。僕などは去年初めて読み始めたばかりのにわか信者ですが、もうすっかり染まってしまいまして。関係各方面に多大なご迷惑をおかけしております。
ごめん。
まあ僕の場合、今までに読んだのが「甲賀忍法帖」「魔界転生」「柳生忍法帖」という押しも押されぬ傑作ばかりでしたし。その辺を汲んでいただいて、多少舞い上がりすぎちゃったりしてもどうかご勘弁を。

んで、今回は「風来忍法帖」なわけだが。感想を言うとしたら、とりあえず


神降臨。


ひれ伏した。拝んだ。随喜の涙を流しながら。そーりゃもー、紙面から後光がさすほどの神っぷりよ。
陽気で人情もろい寅さん系のノリと忍法帖本来の幻惑的な世界を見事に融合させた画期性、完成度の高さ、バランスの良さ。確かに、どこを取ってもすばらしい出来でした。実際、「笑える忍法帖」というある意味かなり異色の作品であるにもかかわらず、本作がシリーズ中で一番好きだという人の割合いも相当なものらしい。
しかし思うに、やはりこの作品において読み手に最大の衝撃を与えるのは、その中に注ぎ込まれた膨大なアイデアの数、そして密度ではないでしょうか。

もう、信じがたいほどの物量なんだよー!

普通ならそれ一個で一冊書けるはずの鋭いアイデアが数えるのもアホらしいほど大量に投入され、そのたびに物語がまったく予想外の方向へと流れを変えていく。しかもイントロからエピローグまで、物語進行の爆発的なスピードは一瞬たりとも減じない。これを途中で投げ出せる読者がいたらお目にかかりたいっていうぐらいの、果てしなく美しい流れ。

圧倒的でした。単位字数あたりのアイデア密度を計算すれば、おそらく並の小説の十倍、いや五十倍か、とにかくとんでもなく高い値をはじきだすに違いない。
人間業じゃないですよ。いったいなぜこんなことが出来るのか、まったく理解を絶する。



──時は戦国時代。
風雲急を告げる武州の地で荒稼ぎを繰り返す、その日暮らしの香具師(やし)の一団がいた。個性豊かな彼ら七人、名前はそれぞれ七郎義経、弁慶、陣虚兵衛、夜狩のとろ盛、昼寝睾丸斎、馬左衛門、そして悪源太助平。
香具師というのは流しの薬売りのことなんだけど、実態は要するにチンピラ詐欺師です。サギ師なので剣はいまいち、腕っ節も十人並み、もちろん忍法なんか使えないまったくのノーマルヒューマン。それでも彼らは、奇天烈なアイデアと持ち前の話術を武器に、大名から忍者軍団まで口八丁手八丁でかつぎまくって涼しい顔。突拍子もない活躍ぶりは、言うなれば「戦国版ルパン三世」。

ところが彼らの目的は、えー、なんというかな、今の常識に照らすとかなりアレっぽいことで。
つまり、北条家に輿入れしたばかりの可憐な美少女・麻也姫様にぞっこん岡惚れしてしまい、夜這いをしてでもその思いを遂げんものという。
ぶっちゃけて言えば、いわゆる「勾引し」。
もっともっとぶっちゃけて言えば、みせいねん・らち・あんど・ふじょぼうこう。


ダメだろそれ。人として。


まあとんでもない話だな。でもめちゃくちゃ楽しいのよこれが。
あ、勾引し行為がじゃないよ。物語がね。
次から次へと急転するストーリー、飛び交う奇怪な忍術や計略、あっと驚くだましのトリック。七人の香具師たちの破天荒な生きざまも痛快無類なら、豊臣秀吉の大軍勢に対してちっぽけな城を健気に守ろうとするヒロイン・麻也姫のかわいさも破壊的。しかし圧倒的戦力差の前に北条方は敗色濃厚。類い稀なる美貌の姫を秀吉への供物に捧げようという風摩忍者組の陰謀を知り、七人のへっぽこナイトは決死の覚悟で風摩忍法に立ち向かうが……。
見よ、前半の陽気なルパン三世ノリから一転、怒濤の修羅場コンボが炸裂する驚愕の展開をー!

未曾有のハイテンションでくり広げられる殲滅戦。

手足をもがれ、全身から血という血を流し尽くし、それでも彼らは笑いながらうそぶく。

俺の屍を越えてゆけ、と。

燃えた。はっきりいって今まで読んだ忍法帖シリーズの中でいちばん燃えた。


他のシリーズ作品とは一線を画すポジティブな作風ながら、素っ気ない史実の「裏側」にわずかなほころびを見い出し、そこに誰ひとり想像すらしなかった豊穣な物語を与えて「裏日本史」をぬけぬけと作ってしまう、その魔術的作劇に一片の翳りなし。
「風来忍法帖」もまた、まぎれもなく忍法帖世界の精華といえるのではないでしょうか。

まあ余人が何と言おうと、個人的にこの作品めちゃくちゃ好きだから。


───
余談。
風来忍法帖を映画にたとえてみるとですね、香具師たちのユーモラスな小悪党ぶりは、黒澤明の「隠し砦の三悪人」などに近いかもしれないなと。あるいは、命がけで戦う姿は「七人の侍」に。そして作中に出てくる忍者学校の特訓シーンは、時代劇版フルメタルジャケット。これはまんまFMJ互換で笑えた。
しかしそこはやっぱり忍法帖でして、猛特訓のあとはごほうびとして落花狼藉酒池肉林の大乱交タイムがあったりするわけで。10Pや20Pは当たり前田のクラッカーヴォレイじゃよ。さらにバルトリン腺液ねっとりたっぷりの忍法恋さみだれは、アロンアルファすら凌駕する神秘のケミカルマジック。
これが神の思考である。恐れ入ったか現代人。

ま、恐れ入るわなぁ、普通。

というわけで、超の上にも超がつく驚天動地の忍法活劇、これを読まぬは一生の損。お代はたったの1020円ぞ。安い!安すぎる!
by umi_urimasu | 2005-05-05 00:44 | 本(others)


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