未読了だけど面白いので紹介。ハインラインの「夏への扉」とかを思い出させる、洒落の効いたタイムトラベル・コメディです。特に「ドゥームズデイ・ブック」でメンタルダメージを受けてしまった方などには強く推奨。癒されるぞう。
背景となる世界は「見張り」や「ドゥームズデイ・ブック」と同一、しかし今回は死者ゼロ(たぶん)。ヴィクトリア朝時代のイギリスに飛ばされた学生タイムトラベラーが巻き込まれる騒動の顛末がユーモラスに語られていきます。 時代の差によるギャップ感覚や誤解、先祖が子孫にそっくりというお約束パターン、時間連続体が要求するつじつま合わせのトリックと、タイムトラベルものの基本要素をきれいに網羅。さらに、迷惑オバさんから犬や猫まで、作品の中を所狭しと駆け回るキャラクターたちがきわめて素直に魅力を振りまく。ノリは徹底して軽くラブコメ指向。ウィリスの短編集「わが愛しき娘たちよ」には「月がとっても青いから」というドタバタコメディが入ってましたが、あの雰囲気を正しく継承した作品のようです。 今はとりあえず、半分ほどまで消化したところ。華麗なる構成力は相変わらずのご様子。さっぱり状況の掴めていない読者をじらしながら少しずつ糸をほどいていくのは、やはりこの作家のいちばん得意とするパターンらしい。しかも今回は、最低でも3ページに一発ぐらいの割合で間断なくネタを振ってくる。過剰なまでの大サービス、それでいて読者をほとんど疲れさせないのはさすがだと思う。 なんとなく思うんですが、シリアスな話よりもこういうユーモア小説的なジャンルの方が、何でもかんでも詰め込もうとするコニー・ウィリスのスタイルには向いているのかもしれません。彼女はどうも技巧に凝りすぎる傾向があって、特に長編に対しては、そのもったいぶり方や全方位的サービスを「少し度が過ぎるかも?」と感じることがなくもない。 しかし話をコメディに限定するなら、度を越すこともまた笑いの原因になるわけで、それはむしろ願ったり叶ったりというべきで。読む方にすればウィリスの華麗なテクニックを純粋に楽しむことができるし、何より気楽だ。 これ重要。登場人物は誰も死なないし、ペストもNEDもどっか別の世界の話。平和っていいな。いやまあ、同じ世界なんだけど。 ところで、タイムトラベル・コメディというとものすごく古典的なテーマのように思えますが、実際には意外なほど記憶に残ってるものって少ないです。僕が過去に読んだSFの多くは、どちらかというとタイムパラドックス自体をネタにしたアイデア小説的なタイプばかりだったような気がするし。とりあえず今のところ、長編では「夏への扉」しか思い浮かばんし。 そういう意味でも、この「犬は勘定に入れません」はレアものと言えるかもしれません。タイムパラドックスを扱いつつ、コメディとしてはわりあい上品で、エンターテインメントに純粋奉仕、ボリュームも十分、そのうえ小説技巧にとことんこだわったSF……まあ、そこまで要求したらそんなに数があるわけないか。 例によって風呂場ペースで読んでいるので、消化速度は遅めですが。もしかして「航路」一気読みの反動だろうか。
by umi_urimasu
| 2005-04-15 20:26
| 本(SF・ミステリ)
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