全3巻。銀河帝国とか平面宇宙とか反陽子砲とかいったSF用語が乱舞する、いかにもなライトノベル=スペースオペラです。そうしたSFガジェットに囲まれつつボーイミーツガールな話を楽しむ小説として、例のやや特殊な読者層向けに書かれたものらしく。
ま、正直いってストーリーはどうでもいい。 ただ、書き手がこの題材を選ぶ理由には思い当たる節があって、そこにちょっと共感を覚えました。たぶん、ファンタジーに対するのと同じような異世界創造への渇望がモチベーションになってるんじゃないかと思います。アーヴ言語などの細かい設定にやたらとこだわるのも、それが原因なのではと。 SFというジャンルに親しんで育った人なら、「銀河帝国」というのは聞き飽きた言葉の筆頭みたいなものでしょう。この題材を扱った先人の作は既にごまんと存在し、今も読み継がれています。アシモフの銀河帝国史、デューン、銀英伝、等々。スターウォーズのような映画も同様に。 しかし、ポピュラーな題材というのはすなわちハードルが高いということでもある。後からきた者ほど独自性を出すのに苦労するため、ハードルは時と共にますます高くなり、新しい作品の出現率は下がる一方になります。その結果、オリジナルな銀河系人類社会のイメージを作り出すのはひどく困難で見返りの少ない仕事になってしまった。きっと今だって誰もやりたがらないでしょう。 けれど、それでも挑戦者数がゼロになるってことはないはず。広大無辺の宇宙に版図を広げた人類の姿、それはおよそありとあらゆるものが入る無限の大風呂敷であり、作家にとっては変わらず魅惑的なテーマであるはずだから。新鮮さはともかくとして。 「共感」といったのはそこです。「星界の紋章」に対しては、後続としてのハンデを背負いつつも、オリジナル銀河帝国づくりという困難に正面から立ち向かおうとした気概をこそ買いたい。作品そのものは、個人的な好みとは少しかけ離れてますが。ストーリーへちまだし。 あと、平面宇宙とか対消滅エンジンとかいったSF設定のコテコテぶりも、別の意味で賞賛したい。 あんたそれ、恥ずかしくないんか! ともかくですね、それなりにいい気分だろうと思うわけですよ。マイ銀河帝国を想像し放題ってのは。 ─── というわけで作品の設定を少し紹介。 「星界の紋章」における銀河帝国の支配者はアーヴという人類の末裔の一種族で、かれらは「星たちの眷属」と自称しています。遺伝子操作によって美貌と長命を獲得し、その性質は尊大にして優雅、かつ好戦的。風変わりな言語と文化を持っていて、やたらに誇り高いのが特徴。 発想のもとはおそらく、指輪物語系統のエルフかな。それも第一紀の。 アーヴたちは強大な軍事力によって恒星間航行の権利を独占し、人類社会の最高権力者として永く銀河系に君臨していました。それはそれである意味平和な状態だったわけですが、あるときアーヴの専横に異を唱える地上人の勢力が叛乱を起こし、宇宙の覇権をかけた大戦争が勃発。 開戦の場に居合わせたのは、平凡な地上人の少年ジントと勝気なアーヴ皇女殿下ラフィール。共に見習い軍人だった二人はばったり出会ってあっさり恋に落ち、あとは角川スニーカー文庫か電撃なんちゃら文庫みたいな冒険譚がどこまでもどこまでも。まあ、メインターゲットがティーンエイジャーだとすれば妥当な線か。 ちなみに、ガンパレが分かる人なら、ジント=速水、ラフィール=舞でほぼ互換が効きますよー。 と、基本設定だけ語ってても何千語にもなってしまうので、このへんで切り上げます。 間違えて買った「星界の戦旗」2巻が余ってるんだが、これどうしたもんだろう。
by umi_urimasu
| 2005-04-10 12:28
| 本(SF・ミステリ)
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