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「航路」コニー・ウィリス
「航路」コニー・ウィリス_a0030177_15462774.jpg化け物です。とにかく技が凄い。あまりの超絶技巧に感極まって泣いたわ。
ひょっとすると個人的ベストオブザイヤーを早々と踏んでしまったかもしれん。まだ3月なのに。
そろそろ読もうと手元に置いてはいたものの、「ドゥームズデイ・ブック」を上回るようなものがそうぽんぽん書けるはずないだろ?とたかをくくってたらまたこの始末……。ごめんなさい許してそしてありがとう。

なんか満たされました。いろいろと。

きっとコニー・ウィリス分が不足してたんだな。
何しろ上下巻合わせて1300ページを一気読み(一日で!)してしまったぐらいだから。最近しばらく本断ちしていたせいもあったんでしょう。日本語版の訳者もかなりの達人らしくて、異常に読みやすかった。


ところで、世間で「感動的」「泣ける」と騒がれる小説が、実はけっこう寒かったという経験は誰にでもあるんではないでしょうか。わざわざそうして煽るものほど中身は陳腐にちがいないという不信もこの種の経験にもとづくもので、僕にもそれはあります。
しかし大多数の読者にとって、「航路」はそのタイプにあてはまらないはずだと信じます。この作品のどこを貶そうとしても、陳腐という表現からは果てしなく遠いと思う。緻密にして華麗な小説技術の結晶で「しかも泣ける」、そういう表現なら似合いますが。
もちろん、同じ言葉でいくら賞賛しても違いが伝わらなければ意味ないんだけど、それでも言わせてほしい。

もうボロボロに泣ける。

眼球溶けるぐらい泣ける。信じろ。

シニカルな読み手なら、単純素朴なヒューマニズムのためにここまで凝った物語を与えることをかえって「あざとい」と感じるかもしれない。しかし、たとえそうした理由で泣くまでに至らないとしても、この神業級の小説技巧にすら感動を覚えないという人はそうはいないでしょう。めちゃくちゃ上手いんだもん。

あ、あとメイジー萌え。床をのたうち回るほど萌え。
この手の少女ヒロインを書かせたらウィリス、まさしく天才だ。


「航路」はひとことでいえば、臨死体験(NDE=Near Death Experience)を題材にしたヒューマンドラマです。心理学者である主人公・ジョアンナが、自身のNDEを通じて「死」の意味を理解していくというもの。宗教的な解釈は否定するスタンスです。ただし、SFと分類するほどSF要素が濃いわけでもない。現代医学的なリアリティの面ではうさんくさい話なのかも。ま、そこはタイムトラベルや星間航行と同じような「虚構のお約束」とみなせば問題ないでしょう。

作風については「ドゥームズデイ・ブック」の方向性とよく似ていて、サスペンスもコメディもギャグも何でもありの複合エンターテインメント。表現上のトリックのおかげで混み入った印象を与えるものの、あらすじを整理していけば「ドゥームズデイ・ブック」がそうだったように意外とシンプルな話です。
その上で、技巧に磨きがかかった感じ。ほとんど完璧な構成美をそなえたプロット、性格的典型ながらディテールまで隙なく造形されたキャラクター、このボリュームにしては圧倒的な読みやすさ。そして、まったく複雑さを感じさせない膨大な伏線の数々。メインテーマであるひとつの大きな「暗喩」の下、怒濤の勢いでそいつらを拾いあげていく後半の展開は「まさかそこで!?」の連発。あれはマジで凄いよ。

そんなわけで、個人的には存分に楽しめた。
さしあたっての問題は、詳しい内容に触れたレビューが書けそうにないってことですかね。
メイントリックである「完璧なメタファー」を含め、ネタバレせずにこの作品の魅力を語るなんて僕には到底無理だ。ていうか「航路」を一度でも読んだら誰でも怖じ気づくって。

言っておきますが、ネタバレは本気でヤバいですよ。
未読者の前で第二部ラストのネタバレをかましたりしたら、一族郎党末代まで祟り倒してやりますがよろしいか?ってくらいにヤバい。できれば、検索とかで自爆する前にさっさと作品を読んでしまうのがいいと思います。
この時点でもし「これ読んでみたい」と思っているとしたら、それはすでに莫大なリスクを負ってるということだから。
by umi_urimasu | 2005-03-28 20:45 | 本(SF・ミステリ)


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