28巻目に突入したダークファンタジー大作。緻密な画力と構成力で描かれる、ひとりの戦士の復讐譚です。5〜15巻あたりの「黄金時代」編はすでに神クラス認定。
でもこの頃、ガッツがご隠居化著し。やべーよ枯れてきたよ隊長。 最近少し気になるのは、ストーリーと関連性のない一発ギャグの増加。コマのはしっこでちょろちょろやってるだけで、暗鬱になりがちな話を救う役には立つんですが、一方ではかなり煩雑な印象も与える諸刃の剣という気がします。イシドロ登場あたりからこの傾向がきわめて強くなった。もう少し抑制して欲しいかも。正直、パックみたいなのが3人もいるとかなりうざったいような……。 あと、ここ5〜6巻分はたくさんのキャラクターがつるんで旅をするという道中ものになっていて、その中で話が閉じ、各人物の扱いの重みもわりと均衡しています。ある意味ホームドラマ的な閉鎖環境で、やや冗長に流れていっているように思える。 以前はあくまでガッツとグリフィスを中心にすえた相克のドラマでした。けれど、グリフィスが一度ゴッドハンドになってまた再生してきてから、二人の対立という構造が弱くなってしまったのかもしれない。 グリフィス。 彼は幼少のころ力に焦がれ、若くして一国をつかむまでになったものの、栄華の頂点に立つ寸前ですべてを失い、ついに人間をもやめた人物です。いわば「邪気のないディオ」みたいなもんですが、それでも共感のもてるキャラクターでした。ある一線まではね。 その一線を、はっきりと残酷に引いたところが僕は気に入っています。 今のグリフィスは現し世の人ではなく、まさに字義通りの「英雄」として描かれています。彼に向かって放たれた矢はすべて逸れ、戦いには必ず勝ち、死者の魂を天へと返すこの世ならぬ力を行使する。彼はそのためにすべてを捨て、人間であることすらやめました。 英雄とは一種概念的な存在で、これを目で見てきたように描くというのはけっこう難しい。多くのファンタジーがやっているようでいて、じつはそんなにリアルにはやってません。ただ強いとかカリスマ的とかいった記号的特徴を説明するだけなら誰でもできる。しかし、人間として最後の一線を越えるまでのいきさつに有無をいわせぬ説得力を与え、幾千幾万の屍の上に立つ英雄の生誕をここまでドラマチックに表現した漫画は、日本ではたぶんベルセルクをおいて他にないでしょう。もちろん、英雄の対立項であるガッツという主人公もふくめて。 そして『蝕』に至る展開は、人間が決して拭いきれない業、「原罪」的なものに触れそうなところまで行ったんじゃないかとさえ思います。己のエゴのために、人間はそこまで堕ちることができるのか? あれは美しい。文学的といってもよさそうなぐらい。 もし「物語の中に入り込む」というファンタジーの醍醐味をほんとうに肌身に感じたいなら、本邦のコミックでこれ以上のものはない。と断言していいと思うがどうか。 ─── 【戯れ言ー】 最近、ブログにあげた画像がけっこう頻繁に消えやがります。死因はいろいろ候補があって特定不能。エキサイトにはもう新機能は期待しないから、せめてこれ以上の環境悪化は防いでくれんかのー。
by umi_urimasu
| 2005-03-04 19:14
| アニメ・マンガ
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