「エデンの園」ヘミングウェイ
a0030177_19594735.jpgヘミングウェイは有名どころを数冊読んだのみで、しかもほとんど忘れてますが。未読に手を出すのは久しぶりですな。
感想は「上手いけど疲れる」。短い文章や科白だけの描写を多用し、すべてにわたって「説明しないで表現する」タイプ、これは疲れる。とりあえず持てる読解力を総動員して立ち向かってはみたものの、教養と知識の絶対的不足を痛感しました。見たことも聞いたこともない美酒美食の数々、科白のやりとりのみで構成された描写の裏に詰め込まれた心理の綾、とてもじゃないけど満足に消化しきれたとは言えん。訳者の努力のおかげか、日本語でも「特徴的な文体」とわかるのはありがたいんですけど。

物語の舞台は1920年代の南仏。作家のデイヴィッド、彼の妻キャスリンと二人めの女性マリータ、かれら三人の倒錯的で奔放な愛に彩られた日々が描かれてゆきます。が、まあキャスリンこそが真の主人公と言い切ってよいでしょう。支配者で女王で娼婦で暴君。小悪魔で知性的で「女の子」で「男の子」で自己破壊的で自爆屋。ものすごいキャラクターです。ですとろいやーです。彼女が徐々に壊れ、三人の関係が崩壊していく後半は、燃え尽きる花火にも似た哀しさと「もうだめだろう、でもなんとかならないのか」的な切迫感を強烈に感じさせます。最初があまりに溌溂として明るすぎたため、なおさらその痛さが強調されて。未完原稿といいつつこれかよ。

もうひとつ、ハイライトとしてあげたいのは、小説内小説として書かれた「象狩り」のパート。もともと、どこを切り取ってもそのまま単ピンの短編として成立してしまいそうな作品でしたが、これはその中でも最強パートではなかろうか。
虚構と現実の交錯が瞬間的に、それもごく微妙なうちに行われ、それだけでもスリリングなのに、さらに冷えきっていく夫婦の関係の暗示や男の心理の底にある少年性などを地の部分と対応させてもいるという。まさに構成の妙。読んでていちばんハマった部分かもしれません。

ま、多少手におえないところはあったにしても、読む快楽だけはしっかり満喫できました。ノーベル賞もらうようなおカタい文学作品と構えてかかる必要はないと思います。単純におもしろいし、べらぼーに上手いし。
ただちょっと格好つけすぎの感はあったけど。てめーこの、新妻二人も乗っけといて贅沢言ってんじゃねーぞコラ。と、その場に居たら言ってやりたい。
物陰で、小声で、日本語で。

(※「エデンの園」はヘミングウェイの実体験にもとづいた作品とされています)
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by umi_urimasu | 2005-02-15 20:03 | 本(others) | Comments(0)
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