「地図にない町」フィリップ・K・ディック
a0030177_2031470.jpg1950年代の作品を集めた鬼才の初期短編集。どうせ古臭いだろうと思ったら、全然そんなことないないない。
「現実メルトダウン感覚」とでもいうべき、日常の確実性を揺さぶるディックお得意のテーマは既にいろんな形で現れています。「薄明の朝食」「超能力者」「地図にない町」など、めぼしい作品はほとんどそれ系。しかも短編形式なので、いきなり本題に入ってズバリとオチがつく。実にテンポがよろしい。巧いわ、やっぱ。

ただし、その他の作品の中には少しばかり寓意性が前面に出すぎなものや、星新一ばりの発明系ショートショートも混じっていて、そういうのはさすがにもういいやって感じだったけど。

あと、大きな特徴としては、50年代という時期ゆえか、核戦争後の暗い世界がシチュエーションとしてかなり執拗に出てきました。今読むと、ターミネーターとかマトリックスとかの核戦後の描写に通じる基本的な発想はこの時代からすでに育まれていたのでは、という気もする。つまり、アメリカンファミリーがシェルターの下でがたぶる震えていて、地上ではまだ戦争やってて、ミサイルが飛び交う地獄のようなありさまで……っていうあのパターンね。どうやらアメリカ人の頭には「地下にこもってやりすごす」という考えが刷り込まれているらしくて、核の恐怖といえばまずそういうイメージらしいんです。
なんだか日本人のイメージとはかなり違うような。


余談。

どこだったっけ……web-tonbori堂さんの所だったかな、いつぞや「ディックの原作はなぜかやたらに映画化される」という疑問が上がってた覚えがありますが、それはむしろ当然なのかも。この最初期の作品群にしたところで、基本的にはみんなエンターテインメントなんですよ。それも、展開の速さ、無駄のなさ、オチの意外性など、サスペンスドラマの教科書といってもいいような構成が多い。だからやっぱり、ディックの作風はもともと「脚本向き」なんだと思う。少なくとも、見た目は。

「地図にない町—ディック幻想短編集」フィリップ K.ディック (ハヤカワ文庫)
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by umi_urimasu | 2005-02-03 20:43 | 本(SF・ミステリ) | Comments(6)
Commented by shou20031 at 2005-02-03 21:31
学生の頃アメリカンSF小説はよく読みました。エンターテイメントに徹している読み易さがありました。
私の小説をブログに連載しています。気が向いたら覗いて下さい。コメントいただけると励みになります。
題名(「呉子」無敗の将軍 若き日の呉子)
http://freenovel.exblog.jp/
Commented by umi_urimasu at 2005-02-03 22:13
>shou20031さま
アメリカSF一般となるとよくわかんないのですが、P.K.ディックについていえば確かにエンターテインメント性を表に出した作品もそこそこ多いようですね。

小説すげーです。でもじっくり読ませていただく根気がありません。すんません。
Commented by tonbori-dr at 2005-02-03 23:15
ああ・・・そう書きましたね(笑)
「マイノリティ・リポート」「クローン」とかあのあたりの書いたときに。
一度読まないといけないなとは思っているので近いうちに読んでみることにします。
核の恐怖ってのは映画にも顕著に表れてて「猿の惑星」とか「遊星よりの物体X」とかにもその感じが出ていますねえ。(どちらもリメイクの元映画の方です)特に「遊星より・・・」は50年代製作ですから。
Commented by umi_urimasu at 2005-02-04 20:30
>tonbori-drさん
あ、やっぱそちらでしたか。ディックの本、僕はまず「電気羊」から入りました。ブレードランナーとはかなり話が違うし、別の意味で衝撃的ですよー。

「猿の惑星」は、じゃあラストのあれは「核戦争後の地球」ってことだったんでしょうか?あんまりマジメに観てなくて、その辺なんも考えてませんでした。
「遊星より〜」は未見でございます。ホラー系はちょっと抵抗が強いのでございます……
Commented by tonbori-dr at 2005-02-06 00:14
遅レスですけれど
「猿の惑星」のラストシーンは核で崩壊した地球です。なのでチャールトン・ヘストンが「ちくしょう、とうとうやっちまった!」と叫ぶのは人類が核を使ってしまったということに対する叫びなんですね。
「遊星より~」はホラーでも昔の映画なんで今観ると多分しょぼいです(^^;
しかしカーペンターの「遊星から~」は多分今見ても怖いです(苦笑)
ですのでカーペンター版はオススメできませんね(^^;
Commented by umi_urimasu at 2005-02-06 19:59
>猿
なるほど、そういうわけだったんですねー。
かれらは宇宙航海をしてきたので、いわゆる相対論的ウラシマ効果とかによって地球では何百年も何千年も時間がたっていて、その間に人類は「自然に」没落したのかと思ってました。
どうもありがとうございます。

「遊星X」は取り扱いに注意します。とりあえず、人間から何かが出てくるパターンは「エイリアン1」でトラウマになってるんで。
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