1950年代の作品を集めた鬼才の初期短編集。どうせ古臭いだろうと思ったら、全然そんなことないないない。
「現実メルトダウン感覚」とでもいうべき、日常の確実性を揺さぶるディックお得意のテーマは既にいろんな形で現れています。「薄明の朝食」「超能力者」「地図にない町」など、めぼしい作品はほとんどそれ系。しかも短編形式なので、いきなり本題に入ってズバリとオチがつく。実にテンポがよろしい。巧いわ、やっぱ。 ただし、その他の作品の中には少しばかり寓意性が前面に出すぎなものや、星新一ばりの発明系ショートショートも混じっていて、そういうのはさすがにもういいやって感じだったけど。 あと、大きな特徴としては、50年代という時期ゆえか、核戦争後の暗い世界がシチュエーションとしてかなり執拗に出てきました。今読むと、ターミネーターとかマトリックスとかの核戦後の描写に通じる基本的な発想はこの時代からすでに育まれていたのでは、という気もする。つまり、アメリカンファミリーがシェルターの下でがたぶる震えていて、地上ではまだ戦争やってて、ミサイルが飛び交う地獄のようなありさまで……っていうあのパターンね。どうやらアメリカ人の頭には「地下にこもってやりすごす」という考えが刷り込まれているらしくて、核の恐怖といえばまずそういうイメージらしいんです。 なんだか日本人のイメージとはかなり違うような。 余談。 どこだったっけ……web-tonbori堂さんの所だったかな、いつぞや「ディックの原作はなぜかやたらに映画化される」という疑問が上がってた覚えがありますが、それはむしろ当然なのかも。この最初期の作品群にしたところで、基本的にはみんなエンターテインメントなんですよ。それも、展開の速さ、無駄のなさ、オチの意外性など、サスペンスドラマの教科書といってもいいような構成が多い。だからやっぱり、ディックの作風はもともと「脚本向き」なんだと思う。少なくとも、見た目は。 「地図にない町—ディック幻想短編集」フィリップ K.ディック (ハヤカワ文庫)
by umi_urimasu
| 2005-02-03 20:43
| 本(SF・ミステリ)
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