「砂の女」安部公房
a0030177_20656100.jpg世界数十ヶ国語に翻訳された名作。でも読んでみたら、構えてかかるような固いものじゃなかったです。むしろ不条理SFやミステリの範疇かと。

中身はほぼ全編、密閉空間に閉じ込められた一組の男女の描写で埋め尽くされていて、手法はきわめて写実的。比喩表現がかなり特徴的でおもしろい。所によってはその比喩がオーバードライブ気味でなかなか笑える。ガルシア=マルケスのように、比喩のイメージに任せてシュール世界へ突入していっちゃったりはしませんが。

じつはこれ、あまりにも小さな世界に限定された物語なので、一度は飽きて放置しかけた本です。しかし、半分まで来てもずーっと穴底でぐだぐだやってる描写が続くと「いったい最後に何を書くつもりなのか」という一点のみに興味が収束して、以後はそっちが読むモチベーションになってきちゃった。
人間というものは、退屈な反復の中におかれるとその退屈にも順応してしまうけれど、それはずっと先の方にある終わりが見えないからであって。いずれ「終わりがくる」ことがはっきりわかっていれば、むしろしゃかりきになって終わりを目指すものであって。そしてたかだか数百ページの文庫本である以上、話はどこかで必ず終わるのであって………。

ならば終わらせてやろう。

それだけで、後半はほとんど一気に読み切りました。
やや手段が目的と化している感は否めない。
まあ、正直それほど好みのタイプではないけど、やっぱすげえ作品だとは思いましたね。
いろいろと汚らしくて不快感を催させ、にもかかわらず、人間描写がイヤになるほど的確だ。
乱暴な言い方をすれば「密室に人間を二人入れとけば何でも人間ドラマ」みたいなありきたりのシチュエーションではあるのですが、それを芸術的な的確さでやりとげた作品といっていいかも。

もし文句があるとすれば、「砂」という、少しばかり尋常一般すぎる舞台装置かな。砂しか出てこないのが僕にはどうも退屈で……。もちろん、乾きや暑さや倦怠、皮膚感覚に訴える不快感などの描写が、この作品ですばらしい効果をあげていたことは認めるけど。なんかこう、絵的にありきたりすぎて心躍るものがないというか、センスオブワンダー分が足りんというか。

つまり、砂は砂でも「デューン 砂の惑星」みたいな異世界でやりたいのよ。ダメか?
「砂の女」安部公房(新潮文庫)

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ちなみに。過去、この暑苦しい作品を映画化した強者がいたらしいです。「砂の女」監督:勅使河原宏、1964年。ち、ち、ちょくしがわらー?カンヌ映画祭でなにやら受賞。んーん。正直、まだあんまり見たくない気分。
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by umi_urimasu | 2005-01-28 20:56 | 本(others)


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