3、2、1、どかーん!玉音放送キタ─((( ゚Д゚)─!!
ある意味、感動的な暴走。 小川一水「大震災SF」三部作の最終巻、爽快な攻めっぷりでした。 あたかも津波の波頭にのりあげた小船のように、「天災」という荒波に揉まれて存亡の危機に揺れる小国家の命運をはらはらしながら追いかける、このスリル!たとえキャラクター配置などが平凡でも、この波にうまく乗ったドラマはとにかく強いです。読者の視点を作品世界の中にうまく固定できれば、あとは勢いで押し流せるということで。 そしてこの作品で、読み手の目を作品内部につなぎとめているものは何かといえば、大震災にまつわる事象すべてを漏らさず書き尽くそうとしたディテール描写でしょう。ドラマそのものすら軽く凌駕するほどの量を割いて描かれた不特定多数の「市民」たちの行動や言動は、おそらくは現実の被災者たちの体験談の引き写しなのでしょうが、この作品にとってはそれが確かに有効だったと思います。うん。リアルに思えた。 巨視的なリアリズムよりも微視的なリアリズム。大きなひとつのフィクションよりも無数の小さなノンフィクションの集積。それぞれが弱い力でつながりあって、物語世界というよりは無数の人間の活動すべてを含んだ「社会」の姿になっていく。偶然かそれとも故意なのか、これって作中で大地震の教訓とされた「植物的な災害対策ネットワーク」の構造に似ているようでもあり……。 ただし一部、そのディテールが「説明」っぽい書き方になってる所があって。ある程度は仕方のないことなのかもしれないけれど、できれば登場人物の言葉や行動で表現してほしかったという気もしました。もちろんそれもひとつの技法だろうし、素人に「こうすりゃよかった」なんていう資格はないんですけど。 この小説はカテゴリとしてはSFですが、明らかに1995年の阪神大震災を念頭において書かれています。日本人ならどんな脳天気な読者でも「東京大震災」の恐怖を連想せずにはいられないでしょう。もし実際に東京でこんな事態が起こったなら、小説みたいにうまくはいかない…というかたぶん国家としては壊滅するんじゃないかと思うけど、正直。 でも、こういう楽観的なフィクションだからこそ臆面もなく言える理想論ってのもたまにはいいもんだとちょっぴり思いました。少なくとも、ディテールにとことんこだわってくれたおかげで、アルマゲドンとかディープ・インパクトとかの「爆発してハイおしまい」な映画よりはすなおに共感できたし。 たぶん、ふりかかる大災害に貧弱な人間が対抗するためには、結局マスの力しかないんだと。スペースシャトルで特攻あぼーんする自己犠牲なんかより、家のタンスや本棚をボルトで固定しておくことの方がはるかに英雄的な行為なんだと。そして実は、カタストロフィ自体よりもその後の「復興」の方がずっとキツいことなんだと。阪神淡路の悲劇を顧みて、そーゆーことが言いたくなったんじゃないかなぁ、この人は。 三部作の中で個人的ベストを選ぶなら、あえて第一巻を。やっぱ、僕にとっては序盤の地震描写が圧巻でしたから。あそこでもう、没頭スイッチがガツーンと力いっぱいONに。 それまでは「何これ?(´,_ゝ`)プッ」とか思ってたんだよ。いやほんと。 あと、やはりこれはアニメ化を期待したい!どこか、がんばって作ってくださいー。 たとえば、村田蓮爾氏とか前田真宏氏といったエキゾチックなデザインの上手そうな人にビジュアルを担当させて……それから、スミルのCVは、えーと、たとえば桑島法子さんあたりではどうか。 あ、つってもバジルール少尉系じゃなくて娘声でな、あたりまえだけど。 スミル好きだー!この鰯水等、君のためなら死ねる! 復活の地(3)小川一水(ハヤカワ文庫JA)
by umi_urimasu
| 2005-01-15 18:25
| 本(SF・ミステリ)
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