これ、どう楽しむのが一番よいだろう。自分の中ではちょっと置き場に困ってる作家、宮部みゆきの初期長編。超能力という非現実を持ち込みつつ、オーソドックスなミステリの中で少年心理の純粋さを肯定的に描いています。
感想は「読みやすい」それに尽きました。 ミステリ手法的にはたぶん常道もいいとこ。ただし、少年の若さや幼さ、それを眺める大人の視点を丁寧に扱っていて、決して軽くはない。底に流れるポジティブ志向はジュヴナイル・ファンタジーに通じるものがありそうです。そしてそこに、文章の読みやすさ、ほどほどの娯楽性とサスペンス、恋愛要素、爽快な読後感といった要素を整理整頓して組み込んである形。 むう、まるで塵ひとつない勉強机の上みたいな感じだ。 これは確かに奇麗です。でも僕自身はもう少しエキセントリックなものというか、余計なストレスをわざわざ欲しがるタイプの読み手らしいので、負荷の少なさが何だかちょっとあっけなかった。こういうすんなりまとまった小説は、その隙のなさを上手いなーとは思いますが、僕にとっては「おしとやか」すぎてちと物足りないっぽい。それよりは、体裁は不格好でも突出したインパクトをもつ小説の方に強く惹かれますね。 宮部作品の中では、ミステリの手法を使っておきながらミステリから逸脱し、日常にひそむ社会のひずみを日常視点のまま描きぬいた「火車」、あれにはかなり感心しました。 一応、こっちにumi_urimasuの「火車」レビューもあるでよ。 ちなみに誤解のないように言っとくと、この「龍は眠る」もふつーに面白い小説ですから。読んで損はなかったです。 以下余談。 宮部氏は時代小説の方面でも高い評価を受けていて、もしかするとそっちには全く新たな驚きがあるかもしれないんでけっこう期待を寄せてたり。「かまいたち」とか、名前からしてもう、ほら。あれ。かまいたち。じつにいい響きだ。 そういえば我孫子武丸氏って本業(?)はちゃんとしたミステリ作家なのかな。それらしい著書がたくさん。 あと、「かまいたち」って聞くとすぐザクレロを連想してしまうんだが僕だけでしょうか。 僕だけですね。はい。 龍は眠る」宮部みゆき(新潮文庫)
by umi_urimasu
| 2004-12-21 20:50
| 本(SF・ミステリ)
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