「魔界転生」山田風太郎
『The Japanese Voodoo Sword Fight!!』

a0030177_2142849.jpg読まれる前に、まず「18才未満回れ右!」と警告させていただきたい。「魔界転生」といえば「甲賀忍法帖」と並ぶ山田風太郎の代表作。内容もまた激烈といってよく、「忍法帖」に輪をかけてめためたでぎたぎたな場面がてんこ盛りだからです。普通なら、低劣・下品・したがって読む価値なし、などと偏見をもたれて当然な内容でしょう。しかし、こと風太郎に限っては違います。むしろ享楽主義を突きつめた結果、かえって非常にストイックな印象を与える域にまで達してしまったという感すらある。

とにかくもう、娯楽指向の徹底ぶりが尋常じゃないんだこの人は。

異常なテンポの良さで次々にたたみかけていく展開。戦い、日常、恋愛など、個々の場面の描写量や配分方法にみられるバランスの良さ。これは「いつ、何を、どれだけ与えれば読み手がもっとも喜ぶか」を知悉していなければできないことだと思います。少なくとも、読者が好みそうな要素をただ組み合わせるだけでは、「先を読みたい」というモチベーションをこれほどまでに高く維持することはできないはずだ。

それと前も書きましたが、余計なことが寸分も書かれていないという純度の高さに対する驚愕は底深いものがありました。じつは文庫版「魔界転生」巻末の菊地秀行氏との対談の中で、著者ご本人がそのまんまのことを言っています。我が意を得たりと思ったのでちょっとだけ抜粋。

(山田)その当時の禄高がどうなっていたとかいう説明なんてつまらないでしょ。
(菊地)ええ。先生の小説を読んでやっぱりすごいのはそれですね。昔の史実はちゃんと押さえてあるんだけど、余計なことは一切書いてない。
(山田)そう。あまりそういうことにとらわれすぎると、小説としての醍醐味や発展性が失われてくる。


「エンターテインメントに徹する」という目的のために不要なものは全て削り取るという断固とした態度と、その目的のためだけに洗練された技術。この比類なき純度の高さが、扱う内容の清濁を越えたストイシズムにつながっているのではないかと思います。全編エログロ爆発なのに、それを「清々しい」とまで感じさせてしまうとは……。恐るべし山田風太郎。
伝奇小説という意味では同じ畑の奈須きのこ氏にも、こんなふうに無駄を省いて回転スピードをあげる方針を取って欲しいと個人的には思うんだけど。


では少しだけストーリーのさわりを紹介。
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時は江戸時代、島原の乱より数年後のこと。
不可解な死をとげた当代随一の武人・剣客たちが、死んだはずのその姿で再び世にあらわれた。
彼らこそは、稀代の妖術師がキリシタンの秘法を用い、生娘を孕ませ再生せしめた残虐無比の魔人たち!
目的はただひとつ、己の歪んだ復讐心のため。この人外の魔人集団をあやつって幕府転覆をもくろむ紀州藩主とその陰で蠢動する忍法僧一味の思惑が絡み合い、平和に暮らしていた柳生一族を滅亡の危機が襲う。

最強を誇る六人の英傑に立ち向かうは、柳生新陰流秘蔵の使い手──。
天衣無縫の剣を執る、隻眼の天才・柳生十兵衛!!

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どうですかお客さん。もうね、問答無用の面白さっすよ。さあさあ読みんさい。

魔界転生〈上〉山田風太郎 (角川文庫)
魔界転生〈下〉山田風太郎 (角川文庫)

参考までに、umi_urimasuの甲賀忍法帖レビューはこちら。言ってることあんまりかわらんけどね。
忍法帖のコミック化「バジリスク」(作画・せがわまさき。これもおすすめ)をさらにアニメーション化するプロジェクトも進行中。初の個人投資システム採用だって。もしかして、お金ないのかなぁ。
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by umi_urimasu | 2004-12-15 22:07 | 本(others)


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