『空の旅のお供に京極堂!』
わけのわからんタイトルですが、由来は先日力説した通り。この作品も飛行機の中で読んでたものです。 いやー楽しかった。あの辞書並の重量感とゴツい厚みは、長旅の連れにはなんとも心強い限り。持ち歩きにはきわめて不便ですが。 さて、「姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」に続く京極堂シリーズ第三弾「狂骨の夢」。今回のお題はフロイト心理学と多重人格です。いつも通り日本の風土文化に深く絡めて描かれる、夢と現実の間をさまよう不確かな狂気の世界、歴史のすき間に生まれた因縁に翻弄される人々の数奇な運命、そして背徳の香り漂う例のアレ。法的にいけないアレ。 そんな時の彼方に葬り去られた歴史の闇を暴いて見せるは、いかにも芥川然とした仏頂面の古書店主。本屋、神主、『拝み屋』という三つの顔をもつ男、中禅寺秋彦が、黒の着流し手甲脚絆に身を包み、人の心に巣食う憑きものをガシガシボロボロ落としまくる。 ──人呼んで”京極堂”、その華麗なるゴーストスイーパーぶりはまさに平成の道満清明! 決め科白は「この世には不思議なことなど何もないのだよ」。 決めワザは榎木津パンチに榎木津キックに榎木津スープレックスホールド。 ウソ。でもちょっとホント。 本作は「姑獲鳥の夏」や「魍魎の匣」に比べればややおとなしい展開ですが、もちろん水木しげる系の妖怪うんちくを立て板に水の勢いで述べ立てる京極流マシンガントークは健在。伏せられていた事件のつながりが次々と明らかになったりトリックを解いたりする箇所も、なかなかのカタルシスでした。この快感は、水戸黄門でいうなら印籠→ひかえおろうシーンに相当するのでしょうか。 いわゆる「お約束」というのは、慣れてしまえば非常に気持ちのいいものです。一度味をしめてしまうと、そこから自発的に抜け出すのはなかなかに難しい。こういう「お約束」的な読書は停滞というか退行というか、とにかくあまり前向きではないとは思うのですが、まあいいか、気持ちいいし……と相変わらず欲望に流されっぱなしの自分が我ながらふがいなくもあり。 まあ、もともと読書に関してそんなに志の高い方でもないんで、このまましばらくゆるゆる京極堂ジャンキーライフを続けさせてもらえればと思ってます。 とりあえず京極夏彦が長旅の定番アイテムとして抜群の効果をあげてくれたのは今年の収穫だったぞマイマスター。 あとラストひとこと。 関口、ダメ人間すぎ。 「狂骨の夢」京極 夏彦(講談社ノベルス)
by umi_urimasu
| 2004-11-22 21:28
| 本(SF・ミステリ)
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