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「朝鮮通信使いま肇まる」 荒山徹/「マルドゥック・フラグメンツ」 冲方丁
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朝鮮通信使いま肇まる

荒山 徹 / 文藝春秋


室町時代、世宗王の命をうけて訪日した朝鮮通信使の朴は、京の町でうっかり「このはしわたるべからず」と書かれた橋をわたり、見とがめた武士に難詰される。だがそのとき、一風変わった僧侶が機転のきいた一言で朴を救った。この僧こそ誰あろう、あの有名な……。

初期の李氏朝鮮は、高麗の文化を弾圧破壊しつくしたため、文化的には壊滅状態だったそうです。その朝鮮の使節が、日本の都市を目にしたときの驚嘆と羨望はいかばかりだったか。作中で引用されている初代通信使・朴瑞生の報告には日本の貨幣や水車や風呂のことがめんめんと書かれており、技術水準のひらきに対するショックのほどがうかがえます。また、そうした反応からみて、文化芸術の面でも刺激をうけるところがあったはず。後に世宗がハングルの創案に着手するとき、あらかじめ使節を通じて日本の知識階級と学問上の交流をはかり、なにがしかの参考にしようと考えたのではないか。といった推測も、「朝鮮通信使いま肇まる」を読むかぎりでは、まったく荒唐無稽ではないように思えるのです。
ただし、そのころの京都で日本語を研究したい韓人にわざわざ高度な言語学を教えてくれる風狂なインテリといったら、そう、やつだ!一休さんしかいない!とか言い出すと、もう立派な伝奇者の世迷言ですが。

   面白ければいいじゃない 伝奇だもの  とおる

まあそんな感じの表題作をはじめ、収録作はいずれも朝鮮への愛と皮肉あふれる八篇。
貢女という悪法が生んだ悲劇を倭寇にからめた「我が愛は海の彼方に」。
「柳生十兵衛死す」へのオマージュともとれる超時空伝奇、「葵上」。
太閤を鼠と評した男の意外な真意を明かす「鼠か虎か」。
通信使の視点から文禄の役の講和決裂のなりゆきを追った「日本国王豊臣秀吉」。
李朝仏教徒の惟政が秀吉をひそかにとむらう「仏罰、海を渡る」。
西洋化に邁進する明治日本の姿に衝撃をうける若き修信使の旅、「朝鮮通信使いよいよ畢る」。
そしてフィナーレは、通信使たちがあの世でひらくひどい座談会、「朝鮮通信使大いに笑ふ」。

いくらでも美しく終われたはずの本で、あえて、あえてこんなひどいオチに。これは捨て身の叛骨心か、はたまた単なるネタ気質ゆえか。荒山徹はどこへゆく。
ちなみに、朴瑞生による日本の風呂の見聞録とは、荒山氏によれば以下のような文章です。興味深いのでメモ。
「日本人は、なべて清潔好きです。大きな家では浴室を設け、町ごとにも、しきりに浴室が設置されています。浴室の制度は、甚だ功にして便です。湯がわけば角を吹いて合図します。それを聞くと、みな争って銭を払い、入浴するのです。我が朝鮮でも、済生局(チェセングク)などに浴室を設置し、以って貨幣流通に資したらよいと思います。」 (「李朝実録」)
角(笛?)を吹くっていうのが面白いですね。これはたぶん遠くの人々にまで同時に知らせるため、つまりそれくらい人気があったということでしょう。日本人は大昔から救いようのないほど風呂好きだったんだな。

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マルドゥック・フラグメンツ (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-11)

冲方 丁 / 早川書房


じつは少し後悔しています。「マルドゥック・アノニマス」本編が出る前にこれを読まないほうがよかったかもしれんと。というか「preface of アノニマス」をです。これはほとんど物語の体をなしておらず、実質アノニマスのキャラクター紹介文、設定ノートをただ羅列したにひとしい内容なので。素材自体はとても魅力的で、長編への期待をかきたてられる。それだけに半端な形で事前情報を仕入れるのはもったいないと思ってしまう。きちんと成型された長編小説として、完成品の物語としてファーストコンタクトを迎えたかった。
その他には、バロット、ボイルド、ウフコックたちが活躍するスクランブルやヴェロシティのサイドストーリーもいくつか収録されてます。おおむねいつもの忍法帖フューチャーノワールです。併録のインタビューでは、ヴェロシティも改訂版出してアニメ化したいと強気な発言。いいねえ、どんどんやってくれたまえ。


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最近読んで超絶お気に入りな一品。絵がうますぎる! アールヌーボーや浮世絵っぽい感触の絵が、乱歩の世界に恐ろしいくらい似合ってます。特に後半、パノラマ島の描写は圧巻。この作品の他に「芋虫」も漫画化されているようで、あれはビジュアルだと相当やばそうな内容ですが、丸尾末広という漫画家は一見グロいものから美しさをひきだせる稀有な才能の人とお見受けします。もし彼によって継続的に乱歩作品が漫画化されるなら、こんな嬉しいことはない。
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by umi_urimasu | 2011-07-10 21:27 | 本(others)


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