「異星人の郷」 マイクル・フリン
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異星人の郷 上 (創元SF文庫)

マイクル・フリン / 東京創元社


異星人との交流を「徹底的に中世人の視点から」描く異色のファーストコンタクトSF。ゲームなどにありがちなナンチャッテ中世じゃない、リアル中世の暮らしってどんな感じなのか、SF分を補給しつつその雰囲気だけでも味わえたらと手にとった本が、まさかここまで完璧に期待通りの内容とは。うれしい誤算でした。

マイクル・フリンの紹介や著作歴についてはこちら。↓
嶋田洋一/マイクル・フリン『異星人の郷』訳者あとがき
作者の得意ジャンルはハードSFらしいのですが、「異星人の郷」ではそうした要素はひかえめで、中世ヨーロッパの科学観・宗教観や地道な異文化交流をこつこつ描き込むことに重きがおかれています。ぶっちゃけ、物語の結構としては非常にありきたりなもので、展開もひたすら地味です。

しかし、思うにその点こそがこの作品のいいところではないかと。中世を忠実に再現し、目新しいSFアイデアや派手なドラマを排したおかげで、「リアル中世人がもし宇宙人と出会ったらどう接したか」を当時の人々の日常感覚にすごく近いポジションで読めるようになってる、と思うので。彼らの言うことなすことには、現代人には理解しがたいところもあれば、まったく今と変わらないところもあります。ドラマ性が悪目立ちしないから、そういった差分がとてもはっきり見える。
そして、すべてをまたたく間に滅ぼしてゆくペストのむごさも、気のきいたうまいドラマなどないからこそ、日常性と地つづきの救いがたい絶望感をもって迫ってきます。題材的にウィリスの「ドゥームズデイ・ブック」などを思い起こさせる作品ですが、手法がちがえばこんなにも味わいが変わるんですね。

あと、個人的にたぶん一番おいしかった部分が、膨大な中世描写から受けるプチ・カルチャーショック。「え、これマジ? 中世ってほんとにこうだったの?」っていう小ネタの量がとんでもない。作者のあとがきによれば、「14世紀中期のラインラント地方の状況をできるだけ正確に描くようつとめた」「二つの例外を除いて、作中で言及した歴史的なできごとや人物はすべて実在のもの」とのこと。大きな歴史の動きだけでなく、村のもめごとを解決する裁判はどんなんだったとか、宴会のときに何を食べるか、騎士の叙勲式では何をするのか、冠婚葬祭のようすがどんなふうか、といった実生活のことまでほんとうに細かく書かれていて、一文一文が驚きの連続でした。この本だけで、自分の中の中世ヨーロッパのイメージがずいぶんゆたかになった気がします。中世知識がたまりつつ読み物としても面白いネタ本として、ぜひ本棚に常備しておきたい一品。

とまあ、個人的には大当たりな作品でしたが、万人におすすめとはいいがたいかもしれません。派手なアイデアSFが読みたい and/or 歴史にまったく興味ないという読者にはあんまり向かないかも。


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ここからキング話。
いま読んでいるのは「シャイニング」なんですが、その巻末の出版書籍一行紹介の欄をなにげなく眺めていたら、キングのラインナップが、紹介文からして面白すぎてですね。こんなのとか。
「季節はずれの山中の別荘。妻を緊縛してセックス遊戯にふけるはずだったジェラルドは急死、床に転がっている。バンザイの恰好で両手をベッドポストにつながれたまま取り残されたジェシーを、渇き、寒さ、妄想が襲う」
ジェラルドのゲーム (文春文庫): スティーヴン・キング
うむ。これはひどい。文春文庫のキングのラインナップはこんなんばっかりのようです。じつにひどくてよろしい。年代順に読むならそろそろ「スタンド」や「IT」にも挑戦すべき頃合いだけど、踏ん切りがつくまでこういう一冊ものを読み漁っておくのもありではないか。と思う今日このごろ。あ、ちなみにシャイニング巻末の解説は桜庭一樹でした。でも全然解説してなかった。

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ロシア人科学者による14万語におよぶ指輪物語の「モルドール視点バージョン」がファンの手で英訳公開
なんと、ようやるなあ。1999年に Eskov Kirill により書かれた「The Last Ring-Bearer」は、指輪物語における善悪の位置づけを反転させてモルドール/サウロン視点から語りなおした作品だそうです。英語版全文は こちら。とりあえずなんというか、乙。


シャイニング〈上〉 (文春文庫)

スティーヴン キング / 文藝春秋


読了。記憶にあるキューブリックの映画版とあまりにも印象がちがうんでびっくりしました。原作はこんなにヒューマンな、イイ話っぽい物語だったのか。
シャイニング (映画) - 原作との違い
いろんな意味で恐ろしい逸話集。ヒステリックな演技をさせるために女優を意図的にいじめたっていうのが(事実だとしたら)いちばん怖いっす。

京極堂「サザエ鬼?」タラヲ「です」
無駄に出来のいい京極夏彦パロディ二次創作小説。思わず全部読んでしまった。文体だけでなく民俗学的うんちくや推理=憑き物落としの流れまでしっかり作り込んであり、サザエさんネタを活かしたオチも見事。ストーリーはけっこう陰惨なので苦手な人は要注意です。


シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ


小説がひきがねになって映画の方も久しぶりに見なおしてみました。ウームこわ美しい。キングからは「エンジンを積んでない豪華なキャデラック」と酷評されたそうですが、これはエンジンをとっぱらって美的インパクトを追求した観賞用キャデラックなのだと思えば。

[ニコニコ] 第6回MMD杯本選
あにょわ~

『SFが読みたい! 2011年版』「ベストSF2010」ランキング
「華竜の宮」は読んどこうかな。

質問: あなたが何度も読み返してしまうSF/FT/ホラー小説は?
バチガルピさんの回答はデューン、銀河市民、クリプトノミコンですって。なんでもアリアリな大河小説っぽいのが好きということであろうか。

[画像] ‘Snow monsters’ of Japan
クトゥルーちっく?美しくもどこか不気味な樹氷写真

Togetter - 「SFタイトルをラノベ調にしてみた まとめ」
「ゼロの伯爵」とか「モナリザオーバーラン!」とかそんな感じですか。

「スティーヴン・キングの魅力」:冲方丁さん & 白石朗さん
うぶちんは後期派らしい

Togetter - 「中つ国テーマパークで楽しい一日を!」
個人的にはアトラクションとかより、建物や道具の再現展示をメインとした野外博物館っぽいのがあったらいいなと妄想。明治村やリトルワールドみたいな方向性でしょうかね。

ショーン・タンの「The Lost Thing」 アカデミー賞受賞
おめっとさんでやんす。この評価を追い風に「The Arrival」も映像化されたりするとなおうれしい。
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by umi_urimasu | 2011-02-02 22:32 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
Commented by わさび at 2011-03-26 00:08 x
こんにちは、ブログいつも楽しみに読んでます。
キングいいですよね。
リストに入ってなかったのでオススメを。
デッド・ゾーンは非ホラーでかなりいいですよ。
Commented by umi_urimasu at 2011-03-26 08:54
ありがとうございます。デッドゾーンもいずれ。今は「痩せゆく男」を読んでいるところです。おもしれえええ
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