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中世の料理と風呂について: 司教様ご一行フルコース食い倒れツアー
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中世東アルプス旅日記―1485・1486・1487

パオロ サントニーノ / 筑摩書房


中世の旅事情とうまいメシ!の本。当時のヨーロッパの王族や司教といった貴人はどんな料理を食べていたのか。特に「旅先で賓客としてもてなされる」ときの宴会とはいかなるものだったか。そうした豪勢な饗応の献立を一品一品までことこまかに記した、リアル中世人によるグルメ旅行記です。なかなかの珍品でした。
いまからちょうど500年前、イスラム教徒トルコ軍によって涜された教会を聖別するために、総大司教管区は使節を派遣する。これは、その随行団の書記の書き残した日記である。著者パオロ・サントニーノは、好奇心あふれる精神の持ち主だったらしい。かれの眼は、公式に報告すべきことについてのみでなく、異文化の地・東アルプス山中の教会、人びとの信仰と暮らし、城砦の様子、食べものそして、女性…などあらゆるものを見つめた。中世理解のための好個の贈りもの。
引用は amazon の紹介文より。

この旅行記は公式の報告書とは別に残された、ややプライベートな(?)ものらしいです。内容で面白いのはやはり、公式文書に書けないことがついつい漏れ出してしまったっぽい部分。公務である聖別のレポートそっちのけで異様にこまかく書かれた料理の記述などをみるに、パオロ・サントニーノ自身よほどの料理通だったのでしょうか。
彼は美食だけでなく美女にも目がなかったようで、貴婦人を称賛する文章もうまい料理と同じくらい気合入ってます。どこぞの城で久しぶりに入浴した折、美しい奥方に全身くまなくやさしく洗ってもらってウェーイ!とかいうエピソードまでセキララに書いてあったりする。なんなんだこの人。まあ、彼の立場からすればレアな経験だったろうし、「これはしっかり書いとかなきゃ!」ってなる気持ちも想像できるのですが。15世紀という時代を考えると、これは教会関係者が記した書物としては少々、いや、相当に型やぶりなものだったのではないでしょうか。

もちろん料理のことにかぎらず、中世のそれなりにVIPな人の旅行の実態などについても詳しい内容になっています。架空の西洋世界を舞台にしたファンタジー小説やRPGなどをたしなむ人にとっては、「フィクションとリアル中世のちがい」がわかる興味深い一冊かと。

あと、わりとどうでもいいことながら、行間からかすかに、パオロ・サントニーノが「司教さまウゼェ」と思ってたような印象を受ける箇所があるんですが……気のせいかこれ? 「最後に小鉢いっぱいに盛った生クリームが全員に配られた。これはみなにも、またとくに、まず第一にわが身のためをはかる司教さまには美味であった」とか「四番目がベーコンの塊とキャベツ。司教さまはこれをわれわれみなの分まで平らげてしまわれた」とか、どうも食い意地がはってるらしい司教に対して、わずかに棘のある書き方になってるような気がするのですよ。まあ、たとえ実際に司教のふるまいに不満をもっていたとしても、上司の悪口をあからさまに書くわけにはいかなかったでしょうけど。真相は歴史の闇のなかですね。

そしてサントニーノ大盛り上がりの入浴サービスについて。
中世の社会的身分の高い階層で、旅の客をもてなすために接待側の女主人や娘が客の入浴の世話をするというのは、「古い」習慣として15世紀まで残っていたようです。ただし当時は入浴の意味あいが現代とはまったく異なり、そもそも入浴すること自体が稀でした。サントニーノの日記本文では「(高貴なるゲオルグ・ヴェント殿の奥方バルバラ様が)汚いこときわまりない汚水をたっぷりかけながら、腹から足の先まで肢体を洗ってくださった」などと書いてある。うへえ。でも衛生的に困るとかは一言もいってません。むしろ倫理観のちがいをひどく気にかけている。つまり、そもそも風呂は体を清潔にするためのものではなく、入浴とはふしだらなこと、泡風呂的な意味のおもてなしに近い、けしからん行為だ、というのがサントニーノにとっての一般常識だったらしい。

こうした「風呂に入るのは衛生上よくない」っていう中世の感覚は、なかなか現代人には受け入れにくいものがあるなあ。「天冥の標」にもそんなことがちょっぴり書かれてた気がする。もう何百年かすれば、「ナノマシンで体表面は常に清潔なんだから、水道水の風呂なんて汚くて入れない。天然温泉なんて肥だめと同義」というのが世間の常識になっているかもしれません。くわばら。

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その他、ここ最近読んだ本まとめ。ほんとはひとつずつちゃんと感想文が書ければいいんですが。

小川一水 「天冥の標 2 救世群」
ブランドン・サンダースン 「ミストスピリット」
チャイナ・ミエヴィル 「ジェイクをさがして」
野阿梓 「伯林星列(ベルリン・コンステラティオーン)」
半村良 「産霊山秘録」
ジョージ・R・R・マーティン/他 「ハンターズ・ラン」
キム・ニューマン 「ドラキュラ紀元」
マーガレット・ワイス&トレイシー・ヒックマン 「ドラゴンランス秘史 ドワーフ地底王国の竜」
五味康祐 「秘剣・柳生連也斎」 ← 9/22 今ここ

▼ この中だと、個人的には「産霊山秘録」が特に楽しかったかな。アポロ14号が月面でちょんまげの武士の死体を発見とか腹筋死亡なバカネタの嵐なのに、ちゃんとすべてが史実に接続できてる。伝奇の醍醐味ここにあり。
▼ 「天冥の標」は単品だとわりあいふつうの小川一水。でも一作ごとに時代や舞台ががらりと変わることで、それらを包含する宇宙年代記的なスケールの大きさが生まれてわくわく感が倍率ドン。
▼ 「ジェイクをさがして」は異形都市好きというニッチな嗜好の人向け。プラスむせかえるラヴクラフト臭。くんかくんか。「ロンドンにおけるある出来事の報告」など、実録都市伝説っぽいのが好きです。
▼ 「ドラキュラ紀元」。なんじゃこりゃクソワロタ。ヴィクトリア朝英国にからめ得るかぎりの吸血鬼ネタをありったけぶちこんだような、ドラキュラ(とホームズとかジキル博士とかその他たくさん)の巨大な二次創作パッチワーク歴史改変伝奇。パクリ/オマージュのやりすぎっぷりには荒山徹に近いものすら感じる。いいもん読みました。
▼ 「秘剣・柳生連也斎」。神がかっとる。五味作品をじっくり読んでるときの精神的充足度の高さは異常

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うおわー!2011年冬!思ってたよりずっと早かった。わずか一年、余裕で待てる。

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さらにサワサワかつ優美になった巨獣の動き。ほんとに生きてるみたい。これがほんとに画面内で自由に動きまわるのかと思うと、感嘆で言葉もないな。 ただ、妙にジブリくさい音楽は正直、あまり好みじゃない感じです。これがテーマ音楽なんだろうか。
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by umi_urimasu | 2010-09-09 21:52 | 本(others)


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