『110番街交差点で逢いましょう』
タランティーノの監督作品は、それと知らずに見たとしても音楽の使い方でまず100%わかってしまうという妙な特徴があります。好きな人には選曲も含めて非常に魅力的な演出なのですが、嫌いな人は大抵全く無反応。ただし、どちらにしてもあのセンスは独特で、簡単なようでいてかなり真似しにくいものらしいです。「タランティーノのような」と評される映画作家など、少なくともハリウッドにはほとんどいないでしょうし。 この「ジャッキー・ブラウン」でも、ベルトコンベア通路に乗って移動するパム・グリアーを延々と映しながら「110番街交差点」をたれ流すという、工夫したのか投げやりなのかどうにも悩ましいオープニングからして異彩を放っています。僕はかっこいいと思うけど、人にわかってくれとは言えません。そもそも何がどうかっこいいのか説明できない。困ったもんだ。 殺伐とした演出やすっとぼけた会話など、従来のタランティーノ節は本作でももちろん健在。その意味ではこの「ジャッキー・ブラウン」は安全株すぎるという感じで、衝撃度はそれほどでもありません。 それまでのタランティーノ作品と大きく違うのは、物語の構成をかなりシンプルにしている点。「パルプフィクション」のようにプロット間の頻繁ないったりきたりはなく、登場キャラクターもそんなに激しくイカレてはいません。さりとて「レザボアドッグス」のような、巧妙な時系列の倒置を使って収斂させていくというひねりのあるシナリオでもない。あのタランティーノにしては信じられないほどストレートな語り口です。時系列の逆転もほとんどなし。それでも、話がシンプルである点以外はしっかりとタランティーノ調で、コンゲーム的な面白さを十分楽しめる作品にはなっています。 音楽はやはり、さすがと言う他ありません。なんか70年代ブラックムービーやR&Bへのオマージュ精神が露骨なようです。その辺の詳しい事情は何も知らないので、ただBGMがかっこいい!としか言えないんですが。 俳優陣は豪華絢爛。特にロバート・デニーロ、出番はさほど多くないのに印象はかなり強烈でした。彼はタランティーノ作品の中では「異分子」かもしれないのですが、それだけによけい光って見えるような気がします。まあ、例によってブッ殺される役なんですけど。 タランティーノって「あっさり」殺すの好きだよなぁ……。
by umi_urimasu
| 2004-09-29 16:51
| 映画
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