時代小説、SF、ボーイズラブ、大食死 あとゾンビ
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ちかごろ読んだ本の話。

薄桜記 (新潮文庫)

五味 康祐 / 新潮社


赤穂浪士の討ち入りの陰で、心ならずも敵対する二人の剣士の友情と破滅を描く五味康祐代表作のひとつ。やっぱ五味作品はいいなあ。泣けるし燃えるし笑えるし。隻腕の剣士・丹下典膳、もうありえんぐらいカッコイイです。読んでいるあいだ、僕の脳内典膳イメージは完全に市川雷蔵になってました。で、いま検索してみたら1959年に雷蔵主演で映画化されているというではないですか。ぐぶあ!俺歓喜。落ちつけ。とりあえずレンタル探してこよう。見て気に入ったら、あらためて買い求めよう。

ちなみに文庫新装版の巻末解説は荒山徹です。以前購入時にもちょっと触れたけど、いつも以上にひど……もとい、五味愛あふれる楽しい解説文となっています。だってしょうがないじゃない。徹だし。

この作品の後半で、五味康祐はストーリーを一時中断させ、かなりの分量を割いて、赤穂事件当時の文献の記述をもとに、いわゆる「忠臣蔵」の美談的イメージを排除した吉良上野介や赤穂浪士たちの実像についての考察を披露しています。しっとりと美しく統一された人情劇の中で、このパートは正直かなり浮いてみえます。「これさえなければ最高傑作だったのに」という批判もあるかもしれません。でも、個人的にはこういう横暴(?)な構成はわりと嫌いじゃない。なんでかよくわからんけど。どうもこの「我慢できなくてつい言いたい放題言っちゃった」っぽい感じがですね。大人げなくもかわいげがあるというか、妙な親しみをおぼえるというか。史実と虚構の差異をいじくりまわしてネタ扱いせずにはいられないという、伝奇脳な人種の同族意識みたいなもんでしょうかな。


魚舟・獣舟 (光文社文庫)

上田 早夕里 / 光文社


さまざまな形の「執着心」(が、通じないSF的な事態)を描いた話が多く収められた中短編集。SFとして表題作の世評が高いのは納得です。ただ、僕には「くさびらの道」の方がインパクトでかかったかも。感染すると体が茸に侵食されて死に至る奇病の蔓延により壊滅しつつある日本。その新種の茸は、ヒトの脳に作用する化学物質を出し、家族や恋人を理想化した幻覚を見せ、誘いよせた人間を新たな苗床に……。なんちゅうおぞましい設定。さぶいぼががが。
「魚舟・獣舟」は陸地の大半が水没し、遺伝子操作により生まれた双子は必ず片方が人間に、片方が魚舟になるという未来の物語。設定はやや無理すぎな気もするけど、元・人類な存在とのディスコミュニケーションを描いて人間の定義をゆさぶる系の話はSFの定番で、定番のおいしさ。あと、この短さにこれだけのものを詰めてあるコンパクトネスがすごいと思います。むしろSFよりそっちの技の方が驚き。


月光のイドラ

野阿 梓 / 中央公論社


「バベルの薫り」からSF分と女っ気を抜いて、美少年同士の耽美Hと政治サスペンスに特化したような作品。たぶん、いわゆるボーイズラブ小説の区分に入れてよかろうと思います。しかし意外にも、バベルのときにあれほど笑い転げまくった熱狂が嘘のようにさばさばと読み流してしまった。少なくとも半分の要素はバベルとかぶっているにもかかわらず。やっぱり僕はただのBLには興味ない人間なのかな。エロい描写にしても、バベルの鍼術秘孔レズとか黄泉戸喫ふたなりとかいった変態プレイに比べればてんでノーマル。もはやこの程度では飽き足らぬ。もっともっとむちゃくちゃな野阿作品求む。


あと千回の晩飯 (朝日文庫)

山田 風太郎 / 朝日新聞社


日常、人生、そして独特の闊達な死生観を飄々と語る山風晩年のエッセイ。やはり面白いのは、古今の著名人の死にざまの話ですね。壮絶なのが正岡子規。なんでも余命一年もない重病人にありえざる超大食だったとか。夕食にいわし十八匹とか間食に菓子パン十個とか、文字通り「桁がちがう」メニュー。その鬼気迫る再生への執念をして「やはり子規は一種の魔人であった」と山風は嘆じています。んー。我々凡人から見たら山風先生も娯楽作家として十分魔人レベルですよ。

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グレッグ・イーガン Zendegi - JGeek Log
こんなふうに英語の小説をさくさく読めるようにわしもなりたい。ぼちぼち訓練しよう……指輪と七王国で。ちなみに zendegi はイラン語で「人生」とかそんな意味らしい。読み方は「ゼンデギ」?

筒井康隆「銀齢の果て」映画化 - 笑犬楼大通り 偽文士日碌
お年寄り惨殺シーン特盛りな作品なのですが、やるならR-15指定か。


WORLD WAR Z

マックス・ブルックス / 文藝春秋


マックス・ブルックス 「WORLD WAR Z」にとりかかってみました。おお。噂は本当だった。生理的に怖がらせることを主眼とした普通のホラーじゃなく、パンデミックSFに近いテイストだ。たぶん人生で初めて、「ゾンビものってちょっといいかも」と思えてきた。新しい扉を開きかけてる感がある。期待しつつ先を読みます。
→ やばいおもろい。戦後インタビュー集という形式のメリットが活用されまくってる。世界のゾンビ状況がじわじわ見えてきた。イランとパキスタンは核で消滅。ロシア連邦がいつのまにか神聖ロシア帝国に。日本はどうなってるんだろう。
→ つづき。「世界をめぐり、さらに上空へ」の視点拡大がすばらしすぎる。国際宇宙ステーションから地上のゾンビ群を観測! 原潜ネタはもしかしたら「復活の日」へのオマージュかな。微妙にとんちんかんな日本描写も、いかにも米製エンタメのお約束という感じでほほえましい。
いやあ、ゾンビっていいもんですねえ。
→ 読了。まさに飢えたゾンビのごとくむさぼり読み尽くす。そしてひとりの新たなゾンビファンが誕生した。
ホラー映画はまだ怖い。映像的なグロにはかなり抵抗ある。でも小説なら大丈夫。どこかに「SF好きなゾンビ初心者におすすめのゾンビ小説○冊」というピンポイントな紹介記事などはないもんでしょうか。


SF作家ジェイムズ・P・ホーガン 逝去|お知らせ|東京創元社
ゴッドスピード。もう重鎮の訃報が毎年恒例みたいになってきています
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by umi_urimasu | 2010-07-04 12:31 | 本(SF・ミステリ) | Comments(5)
Commented by ub7637 at 2010-07-04 15:36 x
>魚舟・獣舟
これは、すばらしい作品でした。
ディスコミュニケーションってのは、この作品全体的に通底するテーマなんでしょうね。埋まらない彼我の心の距離があって、(場合によっては)相手の心のうちが分かってしまうゆえに、決して埋まることのない絶望的なまでの溝の深さが、哀しくもあり、むなしくもあります。
Commented by Mr.Parrot at 2010-07-04 23:07 x
>魚舟・獣舟
上田早夕里さんは『火星ダークバラード』で注目してたんですけど、これも面白そうな作品ですね。読んでみたいと思いました。
Commented by umi_urimasu at 2010-07-04 23:38
特にSFが、というより普通に小説が上手な作家という気がしますね。SF要素にかんしては、設定まわりをもう少し詰めてほしいかなとも思いましたが。
魚舟・獣舟などはあの分量だけで終わってしまうのが惜しい世界です。
Commented by 通りすがり at 2010-07-23 02:02 x
懐かしいですね。その昔90年代に市川雷蔵さんの映画祭で薄桜記の映画観た事があります。怪我で片手片足になりながら戦うんですよねー。殺陣の振付けがちゃんとしていて歌舞伎観てる様でした。小品ながらも凛としている映画です。カッコよかったですよ。
Commented by umi_urimasu at 2010-07-23 22:13
丹下典膳が片腕になるのは物語序盤ですが、小説のほうでは片足になったりというのはなかったですね。
雷蔵作品ははずかしながら眠狂四郎シリーズしか見たことがなくて、別のキャラクターの演技や、原作とのちがいなど、期待しています。雪の殺陣も楽しみです。
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