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「テルマエ・ロマエ」 第1巻 ヤマザキマリ
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「テルマエ・ロマエ」 第1巻 ヤマザキマリ_a0030177_22382426.jpgこれは楽しかった。風呂好きで知られたローマ帝国人が、なんと現代日本の銭湯へタイムスリップしてしまう。2000年の時を越えて東西の「風呂文化」が触れ合ったとき、なぜか生まれる謎の感動。緻密な考証のもと、ユーモアたっぷりに描く異色の比較文化漫画です。

まず冒頭から目をうばわれるのが、とんでもなくにぎやかなローマの公衆浴場シーン。将棋してる!相撲してる!垢すり器具で肌をこすっている人がいる!お菓子の売り子さんがいる!ムダ毛の処理をしてくれるサービスがある! 何なんだこれは。髪結い床ってレベルじゃない。現代人の目から見ても、2000年前のヨーロッパの風景とはにわかに信じがたいような、それは日本人の心の故郷である「風呂」に驚くほど近い情景に見えました。ローマ人たちはこんなにも日々のお風呂を楽しんでいたのか。

そんなローマ人湯客のひとりが突然、現代日本の風呂場にワープしてしまいます。一度ならず何度も。主人公ルシウス・モデストゥスが、ワープのたびに新たなカルチャーショックに打ちのめされ、しかし風呂に関するアイデアだけは貪欲に吸収し、ローマに戻るたびに斬新な風呂を設計する──というのが、この物語の基本的なパターンです。異文化交流の可笑しさ、時代を越えて技術が役に立つキテレツ大百科的(?)な面白さ、「もしローマ帝国に日本の風呂あらば」という一種SF的なくすぐりなど、読みどころは山ほどあるでしょう。そして、温泉たまごや牛乳瓶のフタに子供のように驚き感動する異国人の姿を見ていると、毎日なにげなくつかっているお風呂という文化のゆたかさ、それがもたらす快楽の深さにあらためて気づかされ、「やっぱ風呂はいいよなあ」という幸福感をかみしめずにはいられないのです。日本人でよかった……。

さて、作品中であまりにも高度な文明に接したルシウスは、世界の支配者たるべきローマ帝国民としての自負を砕かれてしまいます。(とはいえ、優れた文明から学べるだけ学ぼうとする謙虚さとたくましさはちゃんとある。)でも、読者の側の視点からみれば、おあいこではないかという気がしないでもありません。彼らローマ人の入浴文化も、現代人にとってかなり衝撃的なものだと思うので。こちらの感覚からすると、2000年もの昔に日本の銭湯にも匹敵する大衆浴場がふつうに存在していたらしいこと、そんなレベルの生活インフラをあたりまえのように築いていたことの方が、むしろ信じがたいのです。古代ローマの繁栄とは、いったいどれほど凄まじいものだったのか。こうして風呂と風呂とが対比されることで、歴史の教科書などを読むよりもずっと身近に、生活上の実感として想像できるというものではないでしょうか。

主人公のルシウスは架空の人物のようですが、作中には皇帝ハドリアヌスや建築家のアポロドロスといった史実上の人物も少なからず登場します。ローマ人の生活描写の描き込みの細かさなどから、歴史考証的なこだわりのほどが感じられます。ローマのトイレのおしりふきシステムにはびっくりしました。あと、キャラの顔の造作も、肖像などが残っている皇帝なんかは写実的に模倣してあったりと、基本的にギャグタッチな話のわりに絵づらはガチ歴史。さらに、一話ごとに「ローマ&風呂、わが愛」という風呂歴史エッセイが付いて、これまた面白い。なんとなく、森薫のヴィクトリア朝文化に対する偏愛に似た方向の情熱を感じます。そういうの大好き。

テルマエ・ロマエ 第一話 ためし読み
こちらでためし読みができるようです。興味をもたれた方はぜひ。

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グレッグ・イーガン インタビュー (Aurealis #42, 2009)
たぶん最新のやつ。気力のあるときに読む

『人喰いの大鷲トリコ』上田文人氏インタビュー
動物の表現について力説。あーもう待ち遠しい

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10位だけどうにも場違いな感が否めない。統計のいたずら?

族長の秋 [著]G・ガルシア・マルケス - 漂流 本から本へ (筒井康隆)
ものすごく読み疲れする本。読み返すなら20年に1回ぐらいのサイクルで。

[youtube] Gandalf Goes to the World Cup
ブブゼラでした。ブブゼラです。ブブゼラなのです。
by umi_urimasu | 2010-06-16 22:53 | アニメ・マンガ


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