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「天地明察」 冲方丁
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「天地明察」 冲方丁_a0030177_0223532.jpgなんという爽やかさ! これが本当にあの“皆殺しの冲方”の作かと、にわかには信じがたいほど清涼感にあふれた小説でした。マルドゥックヴェロシティみたいな暗黒系が好きな人にはかえって猛毒だろ、これは。プロジェクトX的な意味で、感動的な「いい話」ではあるのですが、思わず修造動画が脳裏をかすめてしまった。がんばれ絶対やればできる。そんなスーパーがんばり学者侍のお話。

僕は杉浦日向子効果で江戸風俗に少し興味があるので、江戸期の天文学や数学についての描写をたいへん楽しく読みました。「算額奉納」や算術をおしえる塾、天体観測装置、絵暦など、江戸時代のいろいろな学問・娯楽・文化が物語に絡んで出てきます。ある意味、チャンバラよりもはるかにリアリティを感じさせてくれる部分です。チャンバラがない代わりに、将軍上覧の囲碁勝負(争碁)がちょっと熱いのですが、それはまあ余禄。

ストーリー自体は、よくある理想化補正入りまくりの歴史偉人伝です。生きがいを見つけられずにいた算術好きの若者・渋川春海が、さまざまな分野の天才たちに出会い、成長し、やがて貞享の改暦という国家的事業に人生をかけて挑んでいく。ただし、その仕事は渋川ひとりの学問上の目標にとどまらず、武断主義から文治主義への移行という武士社会の大転換を象徴するひとつのエポックでもあって(という解釈を作中では採っていて)、「そのとき歴史が動いた」的な大きな視点も描かれています。なかなか壮大な歴史的視野の広がりを楽しめて、よい感じです。

ひとつ、個人的な不満としては、関孝和、水戸光圀、酒井忠清、保科正之ら、登場人物のほぼ全員に強烈な名君・好人物補正がかかっていて、話全体がやたら美談くさくなっていること。そこまできれいごとにせんでもええがね。

文体について。冲方丁の小説はおおむねいつもそうだと思うんですが、この作品も言い回しに凝ったりせず、常に主人公の感情にぴったりくっついた、なんというか、非常に「気持ちがそのまんま」出る文章で書かれています。読みやすく、よく伝わる文章です。美文家とはいえないかもしれないけど、こういうのもある種の達文なのかな。いまいち時代小説っぽくはないけど。あと、冲方丁には一度ヴェロシティ文体でも時代小説を書いてみてほしい。すごくユニークな代物ができそう。

最後に、各所で指摘されていることで、当時すでに地動説が天文学者の間では常識だったとか、渋川春海がケプラーの法則を独自に発見したとか、その他史実に即していない記述がちょこちょこあるらしいです。いわれなければなんとなくそのまま納得してしまうところでした。気をつけよう。小説は意図的か否かを問わずウソの塊なのだという認識は常にもっておきたい。特に歴史伝奇とSFでは、考証の失敗で作品全体が台なしになってしまうこともありうるから。

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Time Traveler Caught in Museum Photo?
1940年ごろにカナダ?で撮影されたという古い写真の中に、現代人っぽいファッションの男性が写っていて「タイムトラベラー発見www」と話題に。加工でないとしたらいったい何者だろう。

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ゴールデンウィーク中に読めた本これだけ。でもすばらしかった。彫刻じみた文章美と絶望的なまでの意味不明感。クセになります。夢ってのはこう、理不尽だけど妙なふうにロジカルなことが多いな。全部大好きですが、特に好きな作品をあえて選ぶとしたら「美神の通過」「娼婦たち、人魚でいっぱいの海」「ドロテアの首と銀の皿」あたり。

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「馳夫なら、めったに人の通わぬ小道を通って、あなた方の道案内を勤めることができる。あなた方はかれを連れていくか?」 踊る子馬亭でアラゴルンがみずからを三人称で呼んだ、あの態度がふしぎと印象に残っています。本来は蔑称なのに、さりげなく誇りをもって自称しているようにも思える態度でした。馳夫さんかっこいい。王朝名にまで採用しちゃったくらいだから、じつはアラゴルン本人も相当気に入ってたのではあるまいか。

パオロ・バチガルピ "Small Offerings" 翻訳 - 送信完了。:読書系小日記
バチガルピと聞いて俺様が釣られクマー。読む。うへあ。出産グロ注意

[ニコニコ] マイリスト「人類は組織的抵抗を諦めました」
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by umi_urimasu | 2010-04-30 00:33 | 本(others)


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