『うぶめのなつ』
と読むそうです。作品の印象は「我輩は猫である・伝奇ミステリ版」。戦後まもない復興期、まだ東京に残っていたノスタルジックな日本の風物や、ハイカラがかった言葉づかい。蚊帳、土蔵、闇市、怪しげな探偵、鳥打ち帽の新聞記者。現代日本ではその痕跡すら失われてしまった奥ゆかしさとレトロな活気が漂う中、帝都を震撼させる怪事件に京極堂の推理が冴えわたる。 とまあ、そんな感じ。おおげさに言えば。 僕にとって格別嬉しいのは、わざと古風を気取った文体ですね。これが懐かしい時代の空気をひどく快楽的に再現してくれています。講談師のセリフじみた饒舌ぶりも、何となく初期の漱石っぽくて笑えたし。物語自体はミステリでありながら、言葉の戯れをもしっかり楽しめるのがありがたい。その上で、どろり濃厚なサイコホラー怪奇譚のフレイバーもしっかり持っています。怖かったよ〜。でもその怖さがまた、えも言われず……。 もともと「明治・大正探偵浪漫活劇」的な世界観にはとりわけて憧れがありました。イギリスの探偵小説においてもっとも魅力的な舞台が19世紀のロンドンであるように、日本においてもっともジャパネスク趣味を煽ってくれる時代は明治、大正、昭和初期だと思っています。西欧趣味がハンパに混入しているおかげで、かえって日本らしさが引き立つと言いましょうか。これも単なる思い込みなんですが、僕の中の「憧れ時代ヒエラルキー」は、なんか知らん間にデフォルトで「明治〜戦前>>現代」になっていた。問答無用的に。なんでこうなったんだろう?謎。 ともかく現代ミステリ小説という、ついこの間までは「パターン化しすぎて退屈」と毛嫌いしていた分野が、今はちょっと輝いて見えます。そう、この京極夏彦なら僕でも十分快楽的に読めるに違いありません。 読める、読めるぞー!(C)ムスカ というわけで、次は「魍魎の匣」に。 To be continued.
by umi_urimasu
| 2004-09-13 18:25
| 本(SF・ミステリ)
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